・・・うもののまたよくよく考えて見ていると災難の原因を徹底的に調べてその真相を明らかにして、それを一般に知らせさえすれば、それでその災難はこの世に跡を絶つというような考えは、ほんとうの世の中を知らない人間の机上の空想に過ぎないではないかという疑い・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・不用意に取って来た一草一木を机上に置いて一時間のあいだ無言で児童といっしょにひねくり回したり虫めがねで見たりするほうが場合によってははるかに有効な理科教育になるということもありはしないか。先生から押しつけられた植物学は十分も運動場ではね回っ・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
・・・一例を挙ぐれば、学者は掌中の球を机上に落す時これが垂直に落下すべしと予言す。しかるに偶然窓より強き風が吹き込みて球が横に外れたりとせよ。俗人の眼より見ればこの予言は外れたりと云う外なかるべし。しかし学者は初め不言裡に「かくのごとき風なき時は・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・これも科学的ジャーナリズムの発達のおかげで世界じゅうの学者の研究が迅速に世界じゅうの学者の机上に報道されるからである。三原山投身者が大都市の新聞で奨励されると諸国の投身志望者が三原山に雲集するようなものである。ゆっくりオリジナルな投身地を考・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・る国がらからすれば、内閣に一人や二人のしかるべき科学大臣がいてもよさそうであり、国防最高幹部にすぐれた科学者参謀の三四人がいても悪いことはなさそうに思えるのであるが、これも畢竟は世の中を知らぬ老学究の机上の空想に過ぎないのかもしれない。・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 事実を確かめないで学者が机上の議論を戦わして大笑いになる例はディッケンスの『ピクウィック・ペーパー』にもあったと思うが、現実の科学者の世界にもしばしばある。例えばこんな笑い話があった。ある学会で懸賞問題を出して答案を募ったが、その問題・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・彼らはまた己れが思想の伴侶たるべき机上の文房具に対しても何らの興味も愛好心もなく、卑俗の商人が売捌く非美術的の意匠を以て、更に意とする処がない。彼らは単に己れの居室を不潔乱雑にしている位ならまだしもの事である。公衆のために設けられたる料理屋・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・だから丸善で売れる一日に百本の万年筆の九十九本迄は、尋常の人間の必要に逼られて机上若くはポッケット内に備え付ける実用品と見て差支あるまい。して見ると、万年筆が輸入されてから今日迄に既に何年を経過したか分らないが、兎に角高価の割には大変需要の・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・けられたのであったが、古典作品の鑑賞に於ては或る意味でのペダンティシズムが跳梁するばかりであるし、作品の現実はその関心の中心が益々技巧専一の職人的傾向に陥り、しかもそれらについての是非の論は結局文壇の机上論に終始する傾きにあった。これにあき・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・ 植物 わたくしは机上に年中花を絶やしたことがありません。花はいつも小さいのを選びますが。 樹木も好きです。わたくしは樹のない家に住む気はありません。その上庭に、苔があり芝生があれば、猶更らうれしいことです・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
出典:青空文庫