・・・いや、人界に生れ出たものは、たといこの島に流されずとも、皆おれと同じように、孤独の歎を洩らしているのじゃ。村上の御門第七の王子、二品中務親王、六代の後胤、仁和寺の法印寛雅が子、京極の源大納言雅俊卿の孫に生れたのは、こう云う俊寛一人じゃが、天・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
ある冬の夜、私は旧友の村上と一しょに、銀座通りを歩いていた。「この間千枝子から手紙が来たっけ。君にもよろしくと云う事だった。」 村上はふと思い出したように、今は佐世保に住んでいる妹の消息を話題にした。「千枝子さ・・・ 芥川竜之介 「妙な話」
・・・ 老訓導は重ねて勧めず、あわてて村上浪六や菊池幽芳などもう私の前では三度目の古い文芸談の方へ話を移して、暫らくもじもじしていたが、やがて読む気もないらしい書物を二冊私の書棚から抜き出すと、これ借りますよと起ち上り、再び防空頭巾を被って風・・・ 織田作之助 「世相」
・・・「先生が見て即死なら、見られたその通りを書いて呉れりゃいゝじゃありませんか。」 返事がなかった。「わしら行って見た時にゃ、もう息はなかったんですよ。」「村上先生じゃったらなア!」隅の方で拇指のない坑夫がさゝやいた。村上という・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・ 明治十三年に神田の区会に婦人傍聴者が現れたということが神崎清氏の婦人年鑑にあって、それから明治二十三年集会結社法で婦人の政談傍聴禁止がしかれるまで、成田梅子、村上半子、景山英子らの活溌な動きがあったのだが、岸田俊子にしろ当時の自由党員・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
友達ということを思うと、私の心にきっと甦って来る一つの俤がある。 村上けい子さんといったあの子は今どんな風に暮しているのだろうか。やっぱり東京にいるのかしら。それとも、どこかの田舎の町にでもいるのかしら、それとももうこ・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
重吉 ひろ子 富井 行雄 伸一 健吉 小枝 永田弁護士 村上さん 清瀬さん┌───────┐│ 山代弁護士 ││ 上野駅 │ 吉・・・ 宮本百合子 「「風知草」創作メモ」
・・・兄の介錯は高田十兵衛、弟のは村上市右衛門がした。橋谷は出雲国の人で、尼子の末流である。十四歳のとき忠利に召し出されて、知行百石の側役を勤め、食事の毒味をしていた。忠利は病が重くなってから、橋谷の膝を枕にして寝たこともある。四月二十六日に西岸・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫