・・・米国の独立戦争もレキシントンから巴黎条約までが七年間である。如何なる時代の歴史の頁を繙いて見ても二十五年間には非常なる大事件が何度も繰返されている。如何なる大破壊も如何なる大建設も二十五年間には優に楽々と仕遂げ得られる。一国一都市の勃興も滅・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・かつこの猿芝居は畢竟するに条約改正のための外人に対する機嫌取であるのが誰にも看取されたので、かくの如きは国家を辱かしめ国威を傷つける自卑自屈であるという猛烈なる保守的反動を生じた。折から閣員の一人隈山子爵が海外から帰朝してこの猿芝居的欧化政・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・その時の女房との条約に基いて、店の狐は翌日から姿を隠してしまった。ほかの狐が箱にはいって城下の人形屋から来て、ふたたび店に立ったのはついこの間の事である。今度のは大きさも鼬ぐらいしかないし、顔も少し趣を変えるように注文したのであろうけれど、・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・我輩は右の話を聞て余処の事とは思わず、新日本の一大汚点を摘発せられて慚愧恰も市朝に鞭たるゝが如し。条約改正、内地雑居も僅に数箇月の内に在り、尚お此まゝにして国の体面を維持せんとするか、其厚顔唯驚く可きのみ。抑も東洋西洋等しく人間世界なるに、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・先生は此有様を見て恰も強有力なる味方を得たるの思いして、愉快自から禁ずる能わざると同時に、又一方を顧みれば新条約実施の期限は本年七月と定まり、僅々一年の後には外国人も内地に雑居して日本人と郷党隣人の交際を為すに至る可しと言う。従来の儘なる我・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・わざれば、さまで苦しくもなく、また他人に対しても、貧乏のために侮りをこうむることとてはなき世の風俗なりしがゆえに、学問には勉強すれども、生計の一点においてはただ飄然として日月を消する中に、政府は外国と条約を結び、貿易の道も開らけて、世間の風・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・ 現実をこのように見ている眼をうつして、講和条約にそなえる日本として装われ、観光日本としてポーズされている日本を見たとき、わたしたちがそこに発見するのはなんだろう。シルク・ショウにあらわれている振袖姿の日本娘であり、文化交換として生花、・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・そして一時講和条約の人質にしたわけです。そういうようにして結婚させられました女の人がどんな生涯を送ったかと申しますれば、幸にしてそこで無事に子供をもって一生終ればよかったけれども、なかには自分の実家の兄弟と夫の家族とがまた再び戦さを起した時・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・経済・政治の専門家が条約改正のために尽瘁し、ちょん髷を剪らせ、廃藩を行った、そのことが文化の面では、長いものには巻かれろ式な戯作文学の伝統と近代精神との入りくんだ摩擦に導いたのである。 社会的現実の各面に、今日この摩擦がより発展した形に・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そしてこの道徳高度武装内容をシューマン外相は、はっきり「経済分野にはマーシャル・プラン、政治・軍事の分野には北大西洋条約、この上に精神生活の基礎を与える」ようにといっている。 独占資本の機構が、時々刻々にひき出す尨大な金貨の山におしあげ・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
出典:青空文庫