・・・コオンド・ビイフの罐を切ったり、枯れ枝を集めて火をつけたり、――そんなことをしているうちにかれこれ十分はたったでしょう。その間にどこまでも意地の悪い霧はいつかほのぼのと晴れかかりました。僕はパンをかじりながら、ちょっと腕時計をのぞいてみまし・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・また風の吹く日には、いっしょにくりの実を拾って歩きました。また枯れ枝などを拾ってきて、親の手助けなどをいたしたこともありました。こうして二人は、なんでも持っているものは、たがいに貸し合って仲よく遊びました。たまに両親が町へいって買ってきてく・・・ 小川未明 「星の世界から」
・・・この近在の百姓が御料地の森へ入って、枯れ枝を集めるのは、それは多分禁制であろうが、彼らは大びらでやっているのである。その事は無論時田も江藤も知っていたので、江藤もよく考えたら森の奥のガサガサする音は必ずそれと気の付くはずなんだ。『それは・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・別に怪しい者でなく三人の小娘が枯れ枝を拾っているのでした。風が激しいので得物も多いかして、たくさん背中にしょったままなおもあたりをあさっている様子です。むつまじげに話しながら、楽しげに歌いながら拾っています、それがいずれも十二三、たぶん何村・・・ 国木田独歩 「春の鳥」
・・・しかしそれで枯れ枝などを切ると刃が欠けるという主人の言葉はほんとうらしかった。 私はなんだか試験をされているような気がした。主人は団扇と楊枝とを使いながら往来をながめていた。子供は退屈そうに時々私の顔を見上げていた。 とうとう柄の長・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・山路で、大原女のように頭の上へ枯れ枝と蝙蝠傘を一度に束ねたのを載っけて、靴下をあみながら歩いて来る女に会いました。角の長い牛に材木車を引かせて来るのもあれば、驢馬に炭俵を積んで来るのもありました。みかんの木もあれば竹もあります。目と髪の黒い・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・俳句の全然わからなかったらしいチャンバーレン氏の言ったように、それはただ油絵か何かの画題のようなものに過ぎなくなり、芭蕉の有名な句でも「枯れ枝にからすのいる秋景」になってしまうであろう。この、画題と俳句との相違はどこから生まれるかというと、・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・わりに大きく長い枯れ枝の片を並べたのが大多数であるが、中にはほとんど目立つほどの枝切れはつけないで、渋紙のような肌をしているのもあった。えにしだの豆のさやをうまくつなぎ合わせているのもあって、これがのそのそはって歩いていた時の滑稽な様子がお・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・ 決して今日の様に枯れ枝を、「可哀そうにお爺さんの木や。などと云ったり草の芽生えを気づいて立派に生えてる等とは云った事がないのです。 そんな風で帰るまで凡そ二時間もの間、育ちかけの芽生えのお話やら空を飛んで行く鳥のお・・・ 宮本百合子 「小さい子供」
出典:青空文庫