・・・ほんとうに新しい、若々しい、柔軟なこころをもってかかれた作品が出たらうれしいと思います。 日本における民主主義文学運動の過程はけっして平坦でありえないし、まして、会そのものと各会員の経済事情が逼迫していて、どうしても文学運動としての密度・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・―― ベズィメンスキーは、詩の朗読でよくねれた柔軟な響く声で云い終って、舞台から下の観客席へ向って腰をかがめた。 拍手。拍手。見物は亢奮して拍手がやまない。後の観衆はリャザーノフを見ようとしてのびあがった。 ベズィメンスキーが体・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・それだから一本調子でやって行くといっても、目的があって、そこへやろうという意味において一本調子であるけれども、或る人に云わせれば、どこに終局の目的があるか分らないという位、弾力をもって強く柔軟にやってゆくのです。 優生学、ユーゼニックス・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・そのためには自然欠くことの出来ない落付いた理性の判断と、柔軟溌溂な独創性、沈着な行動性。それ等のものが、知性と云われるもののなかにみんな溶けこんでいて、事にのぞみ、場合に応じ、本人にとっては何か直感的な判断の感じ、或はどう考えてもそうするの・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・子供の胸に、一種のセンセイションが湧いた。柔軟な鞣に包まれた肉体が、薄い布を透して肉体を搏つ音。原始的な何ものかが在ったに違いない。そこで、水芸の後に、めずらしくイタリー女のハアプ弾奏を聴いた。日本では、天平時代の絵で見るぎり、今でもハアプ・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・ 原稿を翻される手つき、それを伏せて左手をその上においたまま一寸上体をのり出すようにされての物云い、私は祖父というものを知らずに育ったから、坪内先生の白いお髭や物腰やに衰えぬ老人の或る瀟洒たる柔軟性というようなものを感じ大変注意をひかれ・・・ 宮本百合子 「坪内先生について」
・・・その妻も、文学の活動について同じような困難に面しながら、心からその良人の立場を支持し、その肉体と精神とを可能な限り健全な、柔軟性にとんだものとして護ろうとして、野蛮で、恥知らずな検閲の不自由をかいくぐりつつ話題の明るさと、ひろさと、獄外で推・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・ いつの時代でも、最も人間らしいぴちぴちした理性と情感とをもった人々は、柔軟でつよいその意力で、歴史というものを、彼等の生きたその時代の今の上にとらえた。レオナルド・ダ・ヴィンチにしても、ヨハネス・ケプラーにしても、決して歴史を過去のも・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・特に敬服に堪えないのは、先生のいかにも柔軟な、新鮮な感受性である。都会育ちの先生が、よくもこれほど細かに、濃淡の幽かな変化までも見のがさずに、山や野や田園の風物を捉えられたものだと思う。わたくしは農村に生まれて、この歌集に歌われているような・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・人形使いはたとえば右肩をわずかに下げる運動によって肢体全体に女らしい柔軟さを与えることができる。逆に言えば肢体全体の動きが肩に集中しているのである。ところでこのように肩の動きによって表情するということも「能」の動作が全然切り捨て去ったところ・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫