・・・広津柳浪、小栗風葉、三島霜川、徳田秋声、川上眉山、柳川春葉等も戦争小説を書いた。当時、作家に対して如何なる意識が要求せられたか、明治三十七年四月号の雑誌「戦争文学」の一文をして、それを語らしめよう。「戦争一たび開けて、文士或は筆・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・「あ、失礼。柳川さん。」 それは仮名で、本名は別にあるんだけれど、教えてやらないよ。「そうです。こないだは、ありがとう。」「いいえ、こちらこそ。」「どちらへ?」「あなたは?」 用心していやがる。「音楽会。」・・・ 太宰治 「渡り鳥」
・・・北原白秋の故郷柳川は水郷である。その縦横のクリークにはドンコがたくさんいるので、私はよく柳川でドンコ釣りをしたが、緒方一三さんというドンコ通がいて、ドンコの頬ペタのフクラミの肉は、どんな魚の味よりもおいしい、その頬のサシミを手のひらに一杯食・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・白秋のロマンティシズムに、九州柳川の日が照って、桐の花がちりかかっていたように、その頃の、きれいな本をつくりたい心、そういうきれいな本をもってみたい心は、日本の出版企業の、かつて初々しかった昔の物語である。そして、それはまだ文化の問題に入っ・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・同じ場所から攻め入った柳川の立花飛騨守宗茂は七十二歳の古武者で、このときの働きぶりを見ていたが、渡辺新弥、仲光内膳と数馬との三人が天晴れであったと言って、三人へ連名の感状をやった。落城ののち、忠利は数馬に関兼光の脇差をやって、禄を千百五十石・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫