・・・殊に、それが現実の物質的な根拠の上に立っての変化でなく、現実の掛声に過敏になりすぎて――あるいはおびえて飛び立っているように感じられる。めまぐるしい文学上の主張や流行の変化を田舎にいて一々知り得る由もないが、わけてもこの頃のあわただしさは、・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・何か云おうとしたが、小川にこう云われると、彼が前々から考えていた、自分の金で自分の子供を学校へやるのに、他に容喙されることはないという理由などは全く根拠がないように思われた。「税金を持って来たんか。」「はあ、さようで……」「それ・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・が、あれだけ農民、農村を知りながら、かくまで農民が非人間的な生活に突き落され、さまざまな悲劇喜劇が展開する、そのよってくる真の根拠がどこにあるかを突きつめて究明し、摘発することが出来ないのは、反都市文学のらち内から少しも出なかった農民文学会・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・両家は各固くその議を執ったが、植通の言の方が根拠があって強かった。そうするとさすがに秀吉だ、「さようにむずかしい藤原氏の蔓となり葉となろうよりも、ただ新しく今までになき氏になろうまでじゃ」といった。そこで菊亭殿が姓氏録を検めて、はじめて豊臣・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・思わず大声になってしまって、「君は、どんな根拠があって、そんな、失敬なことを言うのだ。だいたい、失敬じゃないか。僕の家に、お金が在ろうが無かろうが、君は、それに容喙する権利は、ないのだ。君は、一体、誰だ!」極度の恐怖は、何か、怒りに似た絶叫・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・こんなところにも、私の文学の根拠があるような気がするのです。 また私は社会主義というものはやはり正しいものだという実感をもって居ります。そうしていま社会主義の世の中にやっとなったようで、片山総理などが日本の大将になったということは、やは・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・ モスコフスキーは四十年前の婦人と今の婦人との著しい相違を考えると、知識の普及に従って追々は婦人の天才も輩出するようになりはしないか、と云うと、「貴方は予言が御好きのようだが、しかしその期待は少し根拠が薄弱だと思う。単に素養が増し智能が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・もちろん観客の内の一部はたぶんそれが評判の映画であるために見ないうちから感心してそうして無条件にその評判をのみ込んでしまうであろうが、すべての観客はそれほどの鵜の鳥でない限りこの評判には何かの実証的根拠があるはずであろう。 この映画にも・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この前者の方則については心理学のほうから若干の根拠は供給されるとしても、後者に関する資料はほとんどすべての場合において永久に失われている。従ってほんとうに科学的な推定を下すということはほとんど望み難いことである。ただできうる唯一の方法として・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・これを口にする人は皆それぞれの根拠あっての事と思う。わが知る限りにおいては、またわが了解し得たる限りにおいては(了解し得ざる論議は暫く措必ずしも非難すべき点ばかりはない。けれども自然主義もまた一つのイズムである。人生上芸術上、ともに一種の因・・・ 夏目漱石 「イズムの功過」
出典:青空文庫