・・・「梨花一枝。」 改造十一月号所載、佐藤春夫作「芥川賞」を読み、だらしない作品と存じました。それ故に、また、類なく立派であると思った。真の愛情は、めくらの姿である。狂乱であり、憤怒である。更に、 寝間の窓から、羅馬の燃上を凝視・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・梨花淡白柳深青 〔梨花は淡白にして柳は深青柳絮飛時花満城 柳絮の飛ぶ時 花 城に満つ惆悵東欄一樹雪 惆悵す 東欄一樹の雪人生看得幾清明 人生 看るを得るは幾清明ぞ〕 何如璋は明治の儒者文人の間には重・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・その木の間がくれに見える白い梨花、春の嵐が来て空は今にも大雨を降らしそうな鉛色で鈍く暗く、光る。その下にねっとり白く咲く梨の花の調子は、不安なポプラの若葉の戦ぎと伴って、一つの音楽だ。熱情的な五月の音楽だ――何の花だろう。何の花だろう。朝起・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
出典:青空文庫