・・・ ここにおいて、精神界と物質界とを問わず、若き生命の活火を胸に燃した無数の風雲児は、相率いて無人の境に入り、我みずからの新らしき歴史を我みずからの力によって建設せんとする。植民的精神と新開地的趣味とは、かくて驚くべき勢力を人生に植えつけ・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・ ついに、あの生活の根調のあからさまに露出した北方植民地の人情は、はなはだしく私の弱い心を傷づけた。 四百トン足らずの襤褸船に乗って、私は釧路の港を出た。そうして東京に帰ってきた。 帰ってきた私は以前の私でなかったごとく、東京も・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・蓄妾もまた、勝誇った田舎侍が分捕物の一つとして扱ったから、昔の江戸の武家のお部屋や町家の囲女の情緒はまるで失くなって、丁度今の殖民地の「湾妻」や「満妻」を持つような気分になってしまった。当時の成上りの田舎侍どもが郷里の糟糠の妻を忘れた新らし・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・ 私達は、黒人に対する米人の態度を見、また印度の殖民地に於ける英人の政策を熟視して、彼等が真に人類を愛する信念の何れ程迄に真実であるかを疑わなければならないが、そして、このたびの軍備縮小などというが如き、其の実、戦争を予期しての企てに対・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・「其処で田園の中央に家がある、構造は極めて粗末だが一見米国風に出来ている、新英洲殖民地時代そのままという風に出来ている、屋根がこう急勾配になって物々しい煙突が横の方に一ツ。窓を幾個附けたものかと僕は非常に気を揉んだことがあったッけ……」・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 深沢は、シベリアを植民地のように思って、利権を漁って歩いた男だ。 ルーブル紙幣は、サヴエート同盟の法律によって国外持出しを禁じられていた。そこでまた、国外から国内へ持ちこむこともできなかった。旅行者は、国境で円をルーブルに交換して・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・帝国主義的発展の段階に這入った資本主義は、その商品市場を求めるためと、原料を持って来るために、新しく植民地の分割を企図する。植民地の労働者をベラ棒に安い、牛か馬かを使うような調子に働かせるために、威嚇し、弾圧する。その目的に軍隊を使う。満洲・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 帝国主義ブルジョアジーは、平時から、殖民地の××他民族の隷属、労働運動の抑圧政策をとる。その政策が継続し、発展してついには、××手段による戦争が起ってくる。が、戦争が起ると、必ず帝国主義ブルジョアジーを代表する政府にとっても、危険な状・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・而して、敵手との闘争に於ける一切の偶発事に対して独占団体の成功を保証するものは、独り植民地あるのみである。」だから、資本家は、「植民地の征服を熱望する。」そうして、「金融資本と、それに相応する国際政策とは、結局世界の経済的政治的分割のための・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・この人のおかげでシラキュースは急にどんどんお金持になり、島中のほかの殖民地に比べて、一ばん勢力のある町になりました。 それらの殖民地の中には、アフリカのカーセイジ人が建てた町もいくつかありました。シラキュースはそのカーセイジ人たちと、い・・・ 鈴木三重吉 「デイモンとピシアス」
出典:青空文庫