・・・『帝諡考』の如き立派な大著を貢献されたのは鴎外の偉大な業績の一つである。考証家の極めて少ない、また考証の極めて幼稚な日本の学界は鴎外の巨腕に待つものが頗る多かった。鴎外が董督した改訂六国史の大成を見ないで逝ったのは鴎外の心残りでもあったろう・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ 日本人、ことに知識階級の人々の中にはとかく同胞人の業績に対してその短所のみを郭大し外国人のものに対してはその長所のみを強調したがるような傾向をもつものがないとは言われない。そうしてかなりつまらない西洋の新しいものをひどく感嘆し崇拝して・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・また文部省内には教育映画に関する調査委員会のようなものが設けられてあるそうであるが、その業績として世間一般に広く認められているものはないようである。 しかしこの問題は現在考えられているよりはもっともっと重大な問題であって、当局者は勿論日・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・これも同君の業績が如何に優れたものであったかを証明するものであろう。これ以外にも学界その他から得た栄誉の表章は色々あるがここには述べ悉し難い。 末広君の学術方面の業績は多数にあって到底ここで詳しく紹介することは出来ないし、またそれは工学・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 発明発見、その他科学者の業績に関する記事の特種は、たった一日経過しただけで、新聞記事としての価値を喪失するという事実がある。この事実もまたジャーナリズムのその日その日主義を証拠立てる資料となるであろう。学者の仕事は決して一日に成るもの・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・たとえばまた自分の専攻のテーマに関する瑣末な発見が学界を震駭させる大業績に思われたりする。しかし、人が見ればこれらの「須弥山」は一粒の芥子粒で隠蔽される。これも言わば精神的視角の問題である。この見やすい道理を小学校でも中学校でもどこでも教わ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 科学上の業績は単に分析にのみよって得られるものと考えるのは、有りふれた、しかし大なる誤謬である。少なくも優れた科学者が方則を発見したりする場合には直感の力を借りる事は甚だ多い。そういう場合には論理的の証明や分析はむしろ後から附加される・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・しかし彼の業績は世界人類の共有財産に莫大な寄与を残した。彼はまた見方によれば一種のディレッタントであったようにも見える。しかし如何なるアカデミックな大家にも劣らぬ古典的な仕事をした。彼は「英国の田舎貴族」と「物理学」との配偶によってのみ生み・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・それ以来樋口一葉をはじめ、明治大正を通じて今日までには幾人か、相当の文学的業績をもつ婦人作家がある。が、日本の民主的な文学の流れは、昭和のはじめ世界の民主主義の前進につれて歴史的に高まり、プロレタリア文学の誕生を見た。その当時、その流れの中・・・ 宮本百合子 「明日咲く花」
・・・だから、たとえば日本の婦人の社会的地位の進歩という場合、婦人代議士、特殊な芸術家、科学者などの業績をはかることばかりでは一面的です。日本においては、繊維産業に働く女の子の生活と意識の水準がどの辺にあるかということが、必ずみられなければなりま・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫