・・・そしてみ仏になるといっても、この人間のそのままであるところにさとりの極意があるのだ。 アパートに住み、超モダンな身なりをし、新しい職業をもって、生活の戦いをなしつつ、しかもみ仏であり得るありがたい法が開けているのに、それに面を背けるとい・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・けて巧みに新古精粗の器物を交置し、淳朴を旨とし清潔を貴び能く礼譲の道を修め、主客応酬の式頗る簡易にしてしかもなお雅致を存し、富貴も驕奢に流れず貧賤も鄙陋に陥らず、おのおの其分に応じて楽しみを尽すを以て極意となすが如きものなれば、この聖戦下に・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・この理想はまた一方においてわが国古来のあらゆる芸道はもちろん、ひいてはいろいろの武術の極意とも連関していると見なければならない。また一方においては西欧のユーモアと称するものにまでも一脈の相通ずるものをもっているのである。「絞首台上のユーモア・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・といわれたのがその極意を示したものであろう。終りに宗祖その人の人格について見ても、かの日蓮上人が意気冲天、他宗を罵倒し、北条氏を目して、小島の主らが云々と壮語せしに比べて、吉水一門の奇禍に連り北国の隅に流されながら、もし我配所に赴かずんば何・・・ 西田幾多郎 「愚禿親鸞」
・・・る所なれども、或は家の貧富その他の事情に由て別居すること能わざる場合もある可きなれば、仮令い同居しても老少両夫婦の間は相互に干渉することなく、其自由に任せ其天然に従て、双方共に苦労を去ること人間居家の極意なる可し。一 婦人は別に・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・この不都合をもかえりみず、この失望にも懲りず、なおも奇計妙策をめぐらして、名は三千余方の兄弟にはかるといい、その内実の極意は、暗に政府を促して己が妙計を用いしめんと欲するにすぎず。区々たる政府の政に熱中奔走して、自家の領分はこれを放却して忘・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・いずれか風流の極意ならざる。われ浮世の旅の首途してよりここに二十五年、南海の故郷をさまよい出でしよりここに十年、東都の仮住居を見すてしよりここに十日、身は今旅の旅に在りながら風雲の念いなお已み難く頻りに道祖神にさわがされて霖雨の晴間をうかが・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・「なるほど、茶法の極意を和敬清寂と利休のいったのに対して、それを延して、人に見せるがためにあらず自己の心法を観ずる道場なりと変化さし得て今に至ったことは、ここに何事か錯乱を妨ぐ精神生活者の高い秘密がある」と直覚した久内に、全く賛同しているの・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 四 今日の勘 芸術諸般の極意に達する心理的、生理的な過程を、日本人は勘という表現であらわして来た。ある程度までは説明がつく、それから先は勘でのみ会得されるものだ、そこにその道の極意は秘せられている。そういう意・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
出典:青空文庫