・・・突飛な題材を無造作な不細工な描き方で画いているようではあるが、第一構図や意匠の独創的な事は別問題としても今ここに論じているような「不協和の融和」という事が非常にうまく行われているので、そこに名状の出来ぬ深みが生じ「内容」が出来ているのである・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ いわゆるプロ絵なるものはどうしてああ鈍い色彩の間の抜けた構図ばかりしなければならないか了解が出来ない。文部省も内務省もこの点は意を安んじてもいいであろうと思われた。こういう絵を見ては誰でも資本主義を謳歌したくなる。 安井氏の「風吹・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・嬉々とした人生の建設のために構図し、労作する、その高き旗じるしとして、婦人の大集団の上に、勇敢に、はためかなければならないのである。〔一九四六年四月〕 宮本百合子 「合図の旗」
・・・ なるほど、小さい絵はがきに見るこの源氏物語図屏風にしろ、魅力をもって先ず私たちをとらえるのは、大胆な裡にいかにもふっくり優しさのこもった動きで展開されている独特な構図の諧調である。 後年光琳の流れのなかで定式のようになった松の翠の・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ だが、画家たちは、構図をきめるにしろ、先ずソヴェト・フォード工場の生産的活動とその革命的意義とを十分理解しなければならぬ。その工場でウダールニクはどんな階級闘争の歴史をもって組織され、成員はどんな連中であるかを知らないで、そこの労働者・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・バルザックは自分の文章に自信がなかったばかりでなく、「彼は最初ただ小説の大体の構図だけを書き、細かい点には、その後で次々に筆を加え」るという我流の仕事ぶりを持っていた。そのためにバルザックの作品の校正は植字工にとって恐ろしい仕事であったばか・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・から、すっきりとした着付法、恋愛百態、輝やかしい御幸福な新家庭の写真など、素朴な若い女の目をみはらせる写真と記事とのとなりに、最近とりわけて農村生活の幸福を再認識させようとして絵画化され、空想化された構図で、田舎の生活スナップや労働の姿など・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・二流、三流の通俗画家が、凡庸な構図とあり来りな解釈とで、神話の男神、アポロー、パンまたは、キリスト教の聖徒などを描いた他、或る女流画家の特殊な稟性によって、ユニクな属性を賦与された男子の肖像が在るだろうか。私は自分の狭い知識では不幸にして一・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
・・・題目とねらい所は両者ほとんど同じで、構図さえも似かよっているが、ゾラの百ページを費やす所は彼の筆によればわずかに二三十ページで済む。しかも描写が具体的で事実に迫っている点では、ゾラははるかにかなわない。ゾラには強く作為の匂いがする。そして心・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・第四に構図と色彩とが成功である。左右から内側へ曲げられた女の姿勢と、窓や羽目板の垂直の線と、浴槽の水平線と、――それで画が小気味よく統一せられている。さらに湯槽や、女の髪や、手や、口や、目や、乳首や、窓外の景色などに用いられた濃い色が色彩の・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫