・・・しかもこれはひとしく人間の母性愛の様相なのだ。後のものは高められた母性愛、道と法とに照らされたる母性愛である。そこに人間の尊貴さがある。愛のために孟子の母はわが子を鞭打ち、源信の母はわが子を出家せしめた。乃木夫人は戦場に、マリアは十字架へと・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・現代の紳士淑女の、別離百態と言っては大袈裟だけれども、さまざまの別離の様相を写し得たら、さいわい。 太宰治 「「グッド・バイ」作者の言葉」
・・・此に至って、全然我々の自己の独自性は失われて、我々は実体の様相となった。我々は神の様相としてコーギトーするのである。我々の観念が神に於てあるかぎり、我々は知るのである。斯くして我々の自己の自覚が否定せられるとともに、神は対象的存在として我々・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 私たちの生活に、社会について自然についていろいろと科学的な成果がゆたかに齎らされるにつれて、旧き大地の新しさや、そこの上に生じてゆく社会の歴史の様相が極めて複雑であることを理解する。 日本の勤労人員の幾割が農民であろうか。 約・・・ 宮本百合子 「新しき大地」
・・・ こういう様相が文化とよばれるものだろうか。こんなまとまりのない、二重三重の不均衡でがたぴし、民族の隷属がむき出されているありさまが、わたしたち日本人の文化の本質だというのだろうか。 戦時中の反動で、しきりに教養だの文化だのと求めな・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・その一つの様相として、そのこともいえるだろう。 さて、「科学の学校」がこれからの夏の一日にめぐり合う運命はあるときは深い樹蔭へたずさえて行かれて読まれるのかもしれない。ある日は、私がそれをよんだように電車の中でつとめの行きかえりに読まれ・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・社会主義的リアリズムを、別のことばで表現すれば、それはとりもなおさず、前進する人類社会の歴史の見とおしにたって、いりくんで発言されている階級及び個人の主観的主張の裏にまでかいくぐり、現実の諸過程の様相と本質とを統一的に把握し再現してゆこうと・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ この家での生活は、子供が三人になったら又一つ様相変化して大変なものです。太郎は今私と一つ部屋に寝て居ります、泰子が四十度ほど熱を出しているので。赤坊についている看護婦さんは泰子が熱を出すと同時に自分も熱が出たそうで、ねて居ります。赤坊・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
文化という二つの文字に変りはないようだけれども、歴史のそれぞれの時代で文化の示す様相は実に変化の激しいものがある。そして、文化が危期におかれるという現実もあり得るのである。 大体私たちは日常の言葉として文化を云う場合、・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・等はかかる情勢の裡にあって、日常生活の様相においてさえも新たな一つの歴史の段階に入らんとしつつある階級人のそれぞれの苦痛の姿を語った。藤森成吉氏の戯曲「火」は脱獄後の長英と親友鈴木春山とが描かれ、「三十年」は昨年の同じ作者による「シーボルト・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫