・・・ 近代科学の使徒の一人が、堯にはじめてそれを告げたとき、彼の拒否する権限もないそのことは、ただ彼が漠然忌み嫌っていたその名称ばかりで、頭がそれを受けつけなかった。もう彼はそれを拒否しない。白い土の石膏の床は彼が黒い土に帰るまでの何年かの・・・ 梶井基次郎 「冬の日」
・・・個人的な権限に属することでも、命じられた以上は、他を曲げて実行しなければならないのが兵卒だった。それが兵卒のつとめだ。彼は俸給に受取った五円札をその貯金を出した。そして、ツリに、一円札を四枚、金をまとめて野戦郵便局へ持って行く小使から受取っ・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・その後、日本の民主化にいろいろの変調が加えられて、たとえば用紙割当委員会の権限が、ずるずると内閣に属す委員会に移され、文化材の合理的割当を口実に、官僚統制、赤本屋委員会に堕してしまうころから、吉田茂の明るい展望が記者団との会見で語られるよう・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・世論は当然反対し、ひとまず現在の内閣直属の用紙割当委員会の自主的権限を認めるところまで譲歩させた。しかしここに奇妙なことがある。日本出版協会は、内閣直属の用紙割当委員会ができるとき、出版協会の文化委員会を総動員して反対運動にたった。ところが・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・その場の必要な行政的権限を確保しつつ、前わたしとして渡せば、営団のちょろまかす範囲はいくらかへると考えられまいか。発見した物資を、その場で人民がわけて、その責任は人民管理委員会に負わされるという段どりは、この大事な発展的な人民のための、人民・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・ 夫婦の間の財産処理について、また子供らの後見者として妻、母の権限がひろくなろうとしている。孤独な母、妻である多くの婦人は、これによっていくらか家族の間における立場を改善されるであろう。しかし、財産とは、今日、何であるだろう。金とは? ・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・アジアにおいて、限りない権限をゆだねられている一人の老将軍が、朝鮮の戦線に原子兵器を使用するかしないかを決定するという世紀の絶壁に立たされたとき、彼にノーと言わせる支柱となり、彼を彼の属す国家の人民からさえも世紀の戦争犯罪人とされることから・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
出典:青空文庫