・・・ それを、お前に、いやな言い方をすると、横取りされてしまったのだ。それもほかの理由でならともかく、おれが、大阪弁で言うと、「阿呆の細工に」考えだした美人投票が餌になったのだから、いってみれば、おれは呆れ果てたお人善し、上海まで行き、支那・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・それを老父は耕吉に横取りされたというわけである。家屋敷まで人手に渡している老父たちの生活は、惨めなものであった。老父は小商いをして小遣いを儲けていた。継母は自分の手しおにかけた耕吉の従妹の十四になるのなど相手に、鬼のように真黒くなって、林檎・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・それを、あとからきたアメリカ兵に横取りされてしまった。リーザという名だった。「馭者!」「馭者!」 麓の方で、なお、辻待の橇を呼ぶロシア語が繰りかえされた。 凍った空気を呼吸するたびに、鼻に疼痛を感じながら栗本は、三和土にきし・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・そこへもつてきて、こやつらは、そうでなくても少ない分前を、更に横取りしようとする。この「友喰い」は労働者を雇わなければならない「資本家」を喜ばせる。――北海道の冬は暗いのだ。 小林多喜二 「北海道の「俊寛」」
・・・これに反して先生が自分の仕事を横取りしたといって泣き言を言うような弟子が一本立ちになって立派な独創力を発揮する場合はわりに少ないようである。これは当然のことであろう。 以上とはまた反対の場合もたくさんある。陶工が凡庸であるためにせっかく・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
出典:青空文庫