・・・あたまの皿ア打挫いて、欠片にバタをつけて一口だい。」 丸太棒を抜いて取り、引きそばめて、石段を睨上げたのは言うまでもない。「コワイ」 と、虫の声で、青蚯蚓のような舌をぺろりと出した。怪しい小男は、段を昇切った古杉の幹から、青い嘴・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・寒月子の図も成りければ、もとのところに帰り、この塚より土器の欠片など出したる事を耳にせざりしやと問えば、その様なることも聞きたるおぼえあり、なお氷雨塚はここより少しばかり南へ行きたる処の道の東側なる商家のうしろに二ツほどありという。さらばそ・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・で、小遣銭も置いて行かずに昨夜まで六日七日帰りゃあせず、売るものが留守に在ろうはずは無し、どうしているか知らねえが、それでも帰るに若干銭か握んで家へ入えるならまだしもというところを、銭に縁のあるものア欠片も持たず空腹アかかえて、オイ飯を食わ・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・悍しい、峻しい、冷たい、氷の欠片のような厳しい光の眼であった。しかし美しいことは美しい、――悪の美しさの眼であった。「にッたり」と男は笑った。曇った鏡が人を映すように男は鈍々と主人を見上げた。年はまだ三十前、肥り肉の薄皮だち、血色は・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ネギの白味、豚の白味、茶碗の欠片、白墨など。細い板の上にそれらのどれかをくくりつけ、先の方に三本ほど、内側にまくれたカギバリをとりつける。そして、オモリをつけて沈めておくと、タコはその白いものに向かって近づいて来る。食べに来るわけではなく、・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
出典:青空文庫