・・・ 卓子の上にはその次に、指環の箱が二つ出て来た。白天鵞絨の蓋を明けると、一つには真珠の、他の一つには土耳古玉の指環がはいっている。「久米さんに野村さん。」 今度は珊瑚珠の根懸けが出た。「古風だわね。久保田さんに頂いたのよ。」・・・ 芥川竜之介 「影」
・・・ 次に堺氏が「ルソーとレーニン」および「労働者と知識階級」と題した二節の論旨を読むと、正直のところ、僕は自分の申し分が奇矯に過ぎていたのを感ずる。 しかしながら僕はもう一度自分自身の心持ちを考えてみたい。僕が即今あらん限りの物を抛っ・・・ 有島武郎 「片信」
・・・ 次に出たのが本人である。 一同の視線がこの一人の上に集まった。 もしそこへ出たのが、当り前の人間でなくて、昔話にあるような、異形の怪物であっても、この刹那にはそれを怪み訝るものはなかったであろう。まだ若い男である。背はずっと高・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・で、この次に探偵小説の「活人形」というのがあり、「聾の一心」というのがある。「聾の一心」は博文館の「春夏秋冬」という四季に一冊の冬に出た。そうしてその次に「鐘声夜半録」となり、「義血侠血」となり、「予備兵」となり、「夜行巡査」となる順序であ・・・ 泉鏡花 「おばけずきのいわれ少々と処女作」
・・・ この文句の次に、出会うはずの場所が明細に書いてある。名前はコンスタンチェとして、その下に書いた苗字を読める位に消してある。 この手紙を書いた女は、手紙を出してしまうと、直ぐに町へ行って、銃を売る店を尋ねた。そして笑談のように、軽い・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・これならば、きかぬはずがあるまいと、次には、濃いのをかけて見ました。敏感なあり達は、すばしこく逃げたのであるが、薬のかゝったのだけは、よろめきながら歩いて、やがて、そのまま倒れてしまいました。 けれど、翌日になって、来て見ると、前日に変・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・やがて日が暮れると、父は寄席へ出かけたが、しばらくすると近所の弁当屋から二人前の弁当を運んできたので、私は新次と二人でそれを食べながら新次にきけば、もう浜子は帰ってこないのだという。あほぬかせと私は本当にしなかったが、翌る日おきみ婆さんがい・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・頗る背高で、大の男四人の肩に担がれて行くのであるが、其方へ眼を向けてみると、まず肩が見えて、次に長い疎髯、それから漸く頭が見えるのだ。「看護長殿!」 と小声に云うと、「何か?」 と少し屈懸るようにする。「軍医殿は何と云わ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・ とかなり大きい声で呼びかけてみました。手の燐寸を示すようにして。「落し物でしたら燐寸がありますよ」 次にはそう言うつもりだったのです。しかし落し物ではなさそうだと悟った以上、この言葉はその人影に話しかける私の手段に過ぎませんで・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・これは一里の間、暗い山の手の道をたどって来たからでしょう。次にふわりとした暖かい空気が冷え切った顔にここちよく触れました。これはさかんにストーブがたいてあるからです。次に婦人席が目につきました。毛は肩にたれて、まっ白な花をさした少女やそのほ・・・ 国木田独歩 「あの時分」
出典:青空文庫