・・・ 次にある価値を実現せしめることが、それ自らには善でも悪でもないというカントの考えは、価値が平等であるときには正しいが、実質的価値には等級がある。したがって意欲の対象たる価値そのものに即した善悪が存在する。より高い価値を実現する行為はよ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・たゝきこんだ。次には彼は英国の病院へ収容せられた。そこで、彼は、英国のジョージ五世に言葉をかけられた。「具合はどうかね?」「おかげ様で大変いゝんです。」「アメリカの軍人ですか?」「いゝえ、あっしや、機械工なんで。」…… ・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ウィンパーの一行は登る時には、クロス、それから次に年を取った方のペーテル、それからその悴が二人、それからフランシス・ダグラス卿というこれは身分のある人です。それからハドウ、それからハドス、それからウィンパーというのが一番終いで、つまり八人が・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・裁判長はそう云って、次に山崎に同じ質問を発した。山崎は立ち上がると、しばらくモジ/\していたが、低い声で裁判長の方に向って何か云った。裁判長は白い髯を噛みながら、「本当にやめる心積りか?」と訊きかえした。「そうです、考えるところがあって……・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・襖一つ隔てて直ぐその次にある納戸へも行って見た。そこはおせんが鏡に向って髪をとかした小部屋だ。彼女の長い着物や肌につけた襦袢なぞがよく掛っていたところだ。 何か残っている物でも出て来るか、こう思って、大塚さんは戸棚の中までも開けて見た。・・・ 島崎藤村 「刺繍」
・・・ 次に舜典に徴するに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて舜の事蹟に附加せられ、且人道中最大なる孝道は、舜の特性として傳へらるゝ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・滅亡するものの悪をエムファサイズしてみせればみせるほど、次に生れる健康の光のばねも、それだけ強くはねかえって来る、それを信じていたのだ。私は、それを祈っていたのだ。私ひとりの身の上は、どうなってもかまわない。反立法としての私の役割が、次に生・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・ それから古典教育に関する著者の長い議論があるが、日本人たる吾々には興味が薄いから略する事にして、次に女子教育問題に移る。 婦人の修学はかなりまで自由にやらせる事に異議はないようだが、しかしあまり主唱し奨励する方でもないらしい。・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・第一に高島が有名でないこと、次に高島がボルだということからであった。「おあがんなさい」 深水の嫁さんがしきものをだしてくれた。うなずきながら、足首までしろくなったじぶんの足下をみていると、長野がいつもの大阪弁まじりで、秋にある、熊本・・・ 徳永直 「白い道」
・・・雨外套の職工が降りて車の中は、いよいよ広くなった。次に停車した地蔵阪というのは、むかし百花園や入金へ行く人たちが堤を東側へと降りかける処で、路端に石地蔵が二ツ三ツ立っていたように覚えているが、今見れば、奉納の小さな幟が紅白幾流れともなく立っ・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
出典:青空文庫