・・・ 小泉信三氏の『共産主義批判の常識』の序文をみても、どこか安定をさがしている文化的な欲求にむすびつくモメントがはっきりあらわれています。小泉氏は、公正な学問的立場からの批判という点を力説しているし、読む人も「公平な」知識を得ようとして読・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・それらの運動は単純に家長的な立場から見られている女らしさの定義に反対するというだけではなくて、本当の女の心情の発育、表現、向上の欲求をも伴い、その可能を社会生活の条件のうちに増して行こうとするものであった。社会形成の推移の過程にあらわれて来・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・衣、食、住、愛憎の問題だけを見ても、戦争中は、人間的な欲求の一切を抹殺した権力によって、そういうテーマは、すべて自然の文明的な主張をかくし、軍国主義への献身だけが強調された。小説にしろ、そうだった。大衆のこのみは、そこに追いこまれ、すべての・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・には、日本のそういう中流的環境にある一人の若い女性が、女として人間として成長してゆきたいはげしい欲求をもって結婚し、やがて結婚と家庭生活の安定について常識とされている生活態度にうちかちがたい疑いと苦しみを抱くようになって結婚に破れゆく過程が・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・こんにちの社会で、理性ある平和を愛し、人間の尊重と発展とを願うひとは、ヒューマニティの課題として自身の幸福への欲求をも自覚しずにいられないのだから。 そこにこそ、このひとつらなりの長篇に力を傾ける作者の歓喜と信頼がかくされている。「二つ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・の存在は不可能であることを明瞭にしてゆくにつれ、日本の文化知識人の間に、文化擁護の欲求が湧いた。 一九三五年に京大におこった瀧川教授事件を動機として「学芸自由同盟」が組織され、一九三六年には小松清によって、その前年の夏、パリに開かれた文・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・しんから打込んだ男の子こそ生みたいのが母性の永遠の欲求である。過去の日本における結婚が女の生涯を縛りつけた重みの中には、生まされた子を育てるという悲しむべき受動性も勘定に入れられなければならないだろう。 葉子の鋭い感情の中でこの生々しい・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・魂の饑餓と欲求とは聖い光を下界に取りおろさないではやまない。人生の偉大と豊饒とは畢竟心貧しき者の上に恵まれるでしょう。悩める者、貧しき者は福なるかな。私は自分の貧しさに嘆く人々が一日も早く精神の王国の内に、偉大なる英雄たちの築いたあの王国の・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
・・・これなくしては人は意識の混沌と欲求の分裂との間に萎縮しおわらなくてはならぬ。人が何らか積極的の生を営み得るためには「虚無」さえも偶像であり得る。 偶像が破壊せられなくてはならないのは、それが象徴的の効用を失って硬化するゆえである。硬化す・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・さはあれわが保つ宝石の尊さを知らぬ人は気の毒を通り越して悲惨である、ただ己が命を保たんため、己が肉欲を充たさんために内的生命を失い内的欲求を枯らし果つるは不幸である。この哀れむべき人の中にさらに歩を進めたる労働者を見よ。尊き内的生命を放棄し・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫