・・・ 文学の端初は、世界のあらゆる民族の生活において歌謡であった。原始の人類たちは、彼らのよろこび、悲しみ、勇躍にあたって歌い、踊った。文字はあとから、歌われた歌を記録した。だが、その歌よりもさきに、原始の祖先たちは、狩猟をし、獣の皮をはぎ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・と云う歌謡があった。 きらきら瓦斯燈の煌く下に 小さい娘が 哀れな声で 私の奇麗な花を買って頂戴な と 呼びながら立っている。 歌詞の細かなところは忘れた。けれども、絶間ない通交人は、誰一人この小さい花売娘に見向・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・しかし、もっと深いところでこんにち認められる危険は、資本主義社会のいわゆる文化、娯楽が、きわめて知覚的な刺戟の連続として歌謡・バレー、あてものなどで組立てられ、プログラムづけられているということである。労働条件のわるさ――たえざる疲労と心労・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・詩は歌謡との結びつきで、文学の形態としても一番集団の感情、意志表示に便宜であり、その性質から実に端的に率直に、詩の社会的性格や詩の背後にある集団の表情、身振りが現れて来ている。琵琶歌は昔の支那の詩形によっているものであるが、今日、それは勇壮・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
出典:青空文庫