・・・この現象については、最近に、土佐郷土史の権威として知られた杜山居士寺石正路氏が雑誌「土佐史壇」第十七号に「郷土史断片」その三〇として記載されたものがある。「昔はだいぶ評判の事であったが、このごろは全くその沙汰がない、根拠の無き話かと思えば、・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・尤も『土佐古今の地震』という書物に、著者寺石正路氏が明治三十二年の颱風の際に見た光り物の記載には「火事場の火粉の如きもの無数空気中を飛行するを見受けたりき」とあるからこれはまた別の現象かもしれない。 非常な暴風のために空気中に物理的な発・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・ 悪霊のような煩悶や、懊悩のうちに埋没していた自分のほんとの生活、絶えず求め、絶えず憧れていた生活の正路が、今、この今ようやく自分に向って彼の美くしい、立派な姿を現わしたように思われていたのである。 彼女は、自分の願望を成就させるに・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・次いで私のを印刷しているうちに、町井正路君のが出た。どちらも第一部だけである。私は自分が訳してしまうまで、他人の訳本を読まずにいた。第一部も第二部も訳してしまってから、両君の第一部の訳を読んで見た。そして両君の努力を十分に認めた。尤高橋君の・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・ もとより自分は、対象の写実が正路であって自己情緒の表現が邪路であると言い切るのではない。いずれもともに正しい道であろう。しかし自己の道がいずれであるかを明瞭に意識しておくことは必要である。小林氏はもちろんそれを意識しておられるであろう・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
出典:青空文庫