・・・草田の家の、此の度の不幸に同情する気持など少しも起らぬのである。草田氏は僕に、再三、「どうか、よろしく静子に説いてやって下さい」と手紙でたのんで来ているのだが、僕は、動きたくなかった。お金持の使い走りは、いやだった。「僕は奥さんに、たいへん・・・ 太宰治 「水仙」
・・・貴下の此の度の小説に於いて、わずかながら女性心理の解剖を行っているのはたしかに一進歩にて、ところどころ、あざやかであって感心も致しましたが、まだまだ到らないところもあるのです。私は若い女性ですから、これからいろいろ女性の心を教えてあげます。・・・ 太宰治 「恥」
・・・王さまも、王妃も、また家来の衆も、ひとしく王子の無事を喜び矢継早に、此の度の冒険に就いて質問を集中し、王子の背後に頸垂れて立っている異様に美しい娘こそ四年前、王子を救ってくれた恩人であるという事もやがて判明いたしましたので、城中の喜びも二倍・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
出典:青空文庫