・・・此は、此間も話した事だけれども、家でも斯うやって多勢子供も死に、肉身も少ないのだから、百合ちゃんには養子を取って、分家をさせようと、此那事が起らない昔から云って居たのだ。「其じゃあ、おかあさまは、養子になれる可能のない人と結婚しようとし・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・己ら家の餓鬼奴等も亦何っちゅうだっぺ、折角、ねんごろにきいてくれるにさあ石なげるたあ。此間だも――と村校友達となぐり合を始めて相手に鼻血を出させたが、元はと云えばブランコの順番からで夜まで家へ帰されなかったと話して聞かせた。・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・「妻は此間死んだ。」「へえ。それはどうも。」「島村が知っているが、まるで戦地のような暮らしを遣っているのだ。」「それは御不自由でいらっしゃりましょう。つまらないことを申し上げて、お召替のお邪魔を致しました。これでお暇を致しま・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫