・・・黄の平生密輸入者たちに黄老爺と呼ばれていた話、又湘譚の或商人から三千元を強奪した話、又腿に弾丸を受けた樊阿七と言う副頭目を肩に蘆林譚を泳ぎ越した話、又岳州の或山道に十二人の歩兵を射倒した話、――譚は殆ど黄六一を崇拝しているのかと思う位、熱心・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・ 何時間かの後、この歩兵陣地の上には、もう彼我の砲弾が、凄まじい唸りを飛ばせていた。目の前に聳えた松樹山の山腹にも、李家屯の我海軍砲は、幾たびか黄色い土煙を揚げた。その土煙の舞い上る合間に、薄紫の光が迸るのも、昼だけに、一層悲壮だった。・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・ 三六 火花 やはりそのころの雨上がりの日の暮れ、僕は馬車通りの砂利道を一隊の歩兵の通るのに出合った。歩兵は銃を肩にしたまま、黙って進行をつづけていた。が、その靴は砂利と擦れるたびに時々火花を発していた。僕はこのかす・・・ 芥川竜之介 「追憶」
・・・日本の歩兵は突貫で勝つ、しかし軍隊の突貫は最後の一機にだけやる。朝から晩まで突貫する小樽人ほど恐るべきものはない。 小樽の活動を数字的に説明して他と比較することはなかなか面倒である。かつ今予はそんな必要を感じないのだから、手取早くただ男・・・ 石川啄木 「初めて見たる小樽」
・・・然し、いよいよ僕等までが召集されることになって、高須大佐のもとに後備歩兵聨隊が組織され、それが出征する時、待ちかまえとった大石軍曹も、ようよう附いてくことが出来る様になったんで、その喜びと云うたら、並み大抵ではなかった。どうせ、無事に帰るつ・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・ 初年兵の後藤が束ねた枯木を放り出して、頭をあげるか、あげないうちに、犬の群は突撃を敢行する歩兵部隊のように三人をめがけて吠えついてきた。浜田は、すぐ銃を取った。川井と、後藤とは帯剣を抜いた。小牛のように大きい、そして闘争的な蒙古犬は、・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・みんな三八式歩兵銃じゃないか!」「うむ、そうだな!」 が、噂は、やはり無遠慮にはげしくまき散らされだした。 ある夕方、彼等が占領地から営舎に帰ると、慰問袋と一緒に、手紙が配られてあった。「今年は、こちらだけでなく北海道も一帯・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・先年の、川崎造船所のストライキに対して、歩兵第三十九聯隊が出動した。三十九聯隊の兵士たちは、神戸地方から入営している。自分の工場に於ける同志や、農村に於ける親爺や、兄弟が、食って行かなければならないために、また耕す土地を奪われないために、親・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 村に攻めこんだ歩兵は、引き上げると、今度は村を包囲することを命じられた。逃げだすパルチザンを捕まえるためだ。 カーキ色の軍服がいなくなった村は、火焔と煙に包まれつつ、その上から、機関銃を雨のようにばらまかれた。 尻尾を焼かれた・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・夏、彼等は、歩兵隊と共に、露支国境の近くへ移って行った。十月には赤衛軍との衝突があった。彼等は、装甲列車で、第一線から引き上げた。 草原は一面に霧がかゝって、つい半町ほどさきさえも、見えない日が一週間ほどつゞいた。 彼等は、ある丘の・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
出典:青空文庫