・・・自分は歩道を相変らずてくる。てくる。―― だらだら坂を海岸の方へ下る。倉庫が並んでいる。レールが敷いてある。馬糞がごろた石の間にある。岸壁へ出て、半分倉庫みたいな半分事務所のような商船組合の前で荷馬車がとまった。目の前に、古びた貨物船が・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 午後になると往来はだんだん混みはじめ、芸術座前の狭い通りは歩道一杯の人だ。みると芸術座の入口に特別はり札が出ている。 本日は労働者のためだけに開演する。 前もって職業組合から切符を渡されているモスクワ中の勤労者はこの芸術座ばか・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・勇敢な看護婦・皇后エリザベスは小柄で華奢で、しかも強靭な身ごなしで、歩道によせられた自動車から降り立った。その背たけはすぐわきに立っていた私より、ほんの頭ぐらいしか高くなかった。どこでも、私はその学校ナイズすることが不得手で、大正の初めに苦・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・同じ窓から銀杏並木のある歩道の一部が見下せた。どういう加減かあっちへ行く人ばかり四五人通ってしまったら、往来がとだえ電車も通らない。不意と紺ぽい背広に中折帽を少しななめにかぶった確りした男の姿が歩道の上に現れたと思うと、そのわきへスーと自動・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ひろい板がこいの上は生産に従う労働者と農民の鮮やかなパノラマ式画でおおわれ、赤いイルミネーションが、こっち側の歩道を歩く群集からも読める。 レーニニズムノ旗高ク 五ヵ年計画ヲ四年デ! たなびく赤旗が強烈な夜の逆電光をうけとるとい・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・手入れの行届いたモーニングを着て、細身のケーンを持ちながら、日影のちらつく歩道の樹蔭を静かに行くのが彼の作品の後姿である。 去年の夏頃米国に来遊して間もなく“Saint's Progress”と云う四百頁余の長篇が出版されて六月から八月・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 日本女は、寂しい歩道をときどき横に並んでる家の羽目へ左手をつっぱりながら歩いて行った。本当は新しい防寒靴をもうとっくに買わなければならない筈なんだ。底でゴムの疣が減っちまったら、こんな夜歩けるものじゃない。 橋へ出た。木の陸橋だ。・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・その匂いは細雨の降る夕暮の歩道に立ちこめているが、同じ店先には鰊一尾まるのまま糠づけにしたものも売っている。 今年はどうも鰊が目につくと思っていたら、北海道の或る町から人が泊りに来て、その話ではあっちに今年は鰊がないのだそうだ。加工して・・・ 宮本百合子 「諸物転身の抄」
・・・ 出て来た時には、リラの木の下のベンチにもう誰もいず、門の前の歩道を犬をつれた男が散歩していた。ステッキをその男はゆうゆうついている。ほほう! 燈柱の堂々たる橋がある。 公園だ。十月革命の犠牲者の記念がある。三色菫の・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・街路は一体に薄暗く、パッと歩道へ光を流して人のかたまっているところはそういう光景なので、モスクワのような都会から来た自分は、妙な気がした。それぞれの共和国の内政は或る程度まで自主的に行われているのであった。 傍の小さい新聞屋台で、『レー・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
出典:青空文庫