・・・それ故に、僅かに、神の与えた聡明と歯牙に頼るより他は、何等の武器をも有しない、すべての動物に対して、人間の横暴は極るのであります。 斯の如きことを恥じざるに至らしめた、利益を中心とする文化から解放させなければならぬ。昔の人間は、常に天を・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・といったような顔をして、まるで歯牙にかけないで、マニキュアを続けているのである。この場面が、あとの「氷をもって来い」でフラッシュバックされて観客の頭の中に浮かぶ。 この「氷を持って来い」が結局大事件の元になっておやじはピエールに二階から・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・一代前の云い置きなどを歯牙にかける人はありそうもない。 しかし困ったことには「自然」は過去の習慣に忠実である。地震や津浪は新思想の流行などには委細かまわず、頑固に、保守的に執念深くやって来るのである。紀元前二十世紀にあったことが紀元二十・・・ 寺田寅彦 「津浪と人間」
・・・ もとより高尚なる理論上よりいえば、位階勲章の如き、まことに俗中の俗なるものにして、歯牙にとどむべきに非ずというといえども、これはただ学者普通の公言にして、その実は必ずしも然らず。真実に脱俗して栄華の外に逍遥し、天下の高処におりて天下の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・この一段に至て、かえりみて世上の事相を観れば、政府も人事の一小区のみ、戦争も群児の戯に異ならず、中津旧藩のごとき、何ぞこれを歯牙に止るに足らん。 彼の御広間の敷居の内外を争い、御目付部屋の御記録に思を焦し、ふつぜんとして怒り莞爾として笑・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
出典:青空文庫