・・・発狂禁止令を等閑に附せる歴代政府の失政をも天に替って責めざるべからず。「常子夫人の談によれば、夫人は少くとも一ヶ年間、××胡同の社宅に止まり、忍野氏の帰るを待たんとするよし。吾人は貞淑なる夫人のために満腔の同情を表すると共に、賢明なる三・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・何しろそういう妙画を蔵している家ですから、そこへ行けば黄一峯の外にも、まだいろいろ歴代の墨妙を見ることができるに違いない。――こう思った煙客翁は、もう一刻も西園の書房に、じっとしていることはできないような、落着かない気もちになっていたのです・・・ 芥川竜之介 「秋山図」
・・・然しそれは歴代の為政者の中央政府に阿附するような施設によって全く踏みにじられてしまった。而して現在の北海道は、その土地が持つ自然の特色を段々こそぎ取られて、内地の在来の形式と選む所のない生活の維持者たるに終ろうとしつゝあるようだ。あの特異な・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・まだまだ此外に今上皇帝と歴代の天子様の御名前が書いてある軸があって、それにも御初穂を供える、大祭日だというて数を増す。二十四日には清正公様へも供えるのです。御祖母様は一つでもこれを御忘れなさるということはなかったので、其他にも大黒様だの何だ・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・僕は日本民族の中で一ばん血統の純粋な作品を一度よみたく存じとりあえず歴代の皇室の方々の作品をよみました。その結果、明治以降の大学の俗学たちの日本芸術の血統上の意見の悉皆を否定すべき見解にたどりつきつつあります。君はいつも筆の先を尖がらせても・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・またある時は、平生活人画以上の面白味は解せないくせに、歴代の名作のある画廊を経営していた。一体どうしてこんな事件に続々関係するかと云うに、それはこうである。墺匈国では高利貸しが厳禁せられている。犯すと重い刑に処せられる。そこで名義さえ附くと・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 私は飯田町や一番町やまたは新しい大久保の家から、何かの用事で小石川の高台を通り過る折にはまだ二十歳にもならぬ学生の裏若い心の底にも、何とはなく、いわば興亡常なき支那の歴代史を通読した時のような淋しく物哀れに夢見る如き心持を覚えるのであ・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・第六、歴史 歴史は、和漢に限らず、世界中いずれの国にても歴代あらざるはなし。歴代あれば歴史もあるはずなり。ひろく万国の歴史を読み、治乱興廃の事跡を明らかにし、此彼相比較せざれば、一方に偏するの弊を生じ、事にあたりて所置を錯る・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・外見だけのこととしていいくるめきれない女性歴代の情感の飢渇が、哀れな傷をそこに見せているのである。 日本の女性が、両性の友情の間で紛糾を生じがちなのは、我知らずそこに、自分たち日常の現実にあらわれている関係のきまった男との間に在るいきさ・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ 従来の支那は観光客のために歴代何一つしなかった 葬式されずにころがっている人々の死骸さえかたづけなかった。しかしヨーロッパの精神に支那はそのむき出しのままの姿で深い感銘を与えている。それはマンの旅行記をよんでも分る。・・・ 宮本百合子 「観光について」
出典:青空文庫