・・・肉体において殺されたものが、小林多喜二にしろ、野呂栄太郎にしろ、人類の発展史の裡に決して死することなく生存している。肉体においては生存していても、歴史の進む方向を判断する精神において既に死んでいる者が、死して死なざる生命に甦らされて今日物を・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・法王の申した事もござるし又私としても死するより恥な破門をうけた王の命令を奉ずるのは神の御名を汚す事になるから同じ意見のものと皆かたらって命令は奉ぜぬ事に致した。 と申すのじゃ。 叛逆を起すにわざわざ知らせて寄こいたのじゃ。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・恋の怨みに世を去り、悲痛なる反抗心に死する人が世に遺す凄き呪い。一念の凝った生き霊。藤村操君の魂魄が百数十人の精霊を華厳の巌頭に誘うたごとく生命の執着は「人生」を忘れ「自己」の存在を失いたる凡俗の心胸に一種異様の反響を与う。小さき胸より胸へ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫