・・・その仕事をし遂げるまでは、たとい死に神が手をついて迎えに来ても、死に神のほうをたたき殺すくらいな勢いでやっているんだ。その中でもがんばり方といい、力量といい一段も二段も立ちまさっていたのは奴だった。東京のすみっこから世界の美術をひっくり返す・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・謂わば死に神の手招きに吸い寄せられるように、私は何の理由もなく、佐渡にひかれた。私は、たいへんおセンチなのかも知れない。死ぬほど淋しいところ。それが、よかった。お恥ずかしい事である。 けれども船室の隅に、死んだ振りして寝ころんで、私はつ・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・可哀想に、華族様だけは長いきさせてあげても善いのだが、死に神は賄賂も何も取らないから仕方がない。華族様なんぞは平生苦労を知らない代りに死に際なんて来たらうろたえた事であろう。可哀想だが取り返しもつかないサ。正三位勲二等などと大きな墓表を建て・・・ 正岡子規 「墓」
出典:青空文庫