・・・日本の開化は自然の波動を描いて甲の波が乙の波を生み乙の波が丙の波を押し出すように内発的に進んでいるかと云うのが当面の問題なのですが残念ながらそう行っていないので困るのです。行っていないと云うのは、先程も申した通り活力節約活力消耗の二大方面に・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・その中、同君の逝去せられたのを聞いて残念に堪えない。新聞によれば、何千人かの会葬者があったらしい。同君は何処かにえらい所があったのだと思う。 右のような訳で、高校時代には、活溌な愉快な思出の多いのに反し、大学時代には先生にも親しまれず、・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・就中彼らは耶蘇教の人なるが故に、己れの宗旨に同じからざる者を見れば、千百の吟味詮索は差置き、一概にこれを外教人と称して、何となく嫌悪の情を含み、これがために双方の交情を妨ぐること多きは、誠に残念なる次第にして、我輩は常にその弁明に怠らず。日・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・二個所参れば二人喰い殺した罪が亡びるようにと、南無大師遍照金剛と吠えながら駈け廻った、八十七個所は落ちなく巡って今一個所という真際になって気のゆるんだ者か、そのお寺の門前ではたと倒れた、それを如何にも残念と思うた様子で、喘ぎ喘ぎ頭を挙げて見・・・ 正岡子規 「犬」
・・・柏の木はみんな踊のままの形で残念そうに横眼で清作を見送りました。 林を出てから空を見ますと、さっきまでお月さまのあったあたりはやっとぼんやりあかるくて、そこを黒い犬のような形の雲がかけて行き、林のずうっと向うの沼森のあたりから、「赤・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
きょう、この会に出席して、みなさまにお目にかかれないのを、ほんとうに残念に思います。去年の秋、過労して健康をわるくしてから、おはなしができないで、ずいぶんあちこちの学校からの御希望に添えませんでした。そういう学校からの方た・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・ 最早某が心に懸かり候事毫末も無之、ただただ老病にて相果て候が残念に有之、今年今月今日殊に御恩顧を蒙り候松向寺殿の十三回忌を待得候て、遅ればせに御跡を奉慕候。殉死は国家の御制禁なる事、篤と承知候えども壮年の頃相役を討ちし某が死遅れ候迄な・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・そんなに御疎遠になったのを残念に思うことは、わたくしの方が一番ひどいのです。貴夫人。でも只今お目に懸かることの出来ましたのは嬉しゅうございますわ。過ぎ去った昔のお話が出来ますからね。まあ、事によるとあなたの方では、もうすっかり忘れてしま・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「辻馬車」
・・・「科学上のことはよく僕には分らなくて、残念だが、今は秘密の奪い合いだから、君も相当に危いですね、気をつけなくちゃ。」「そうです。先日も優秀な技師がピストルでやられました。それは優秀な人でしたがね。一度横須賀に来てみて下さい。僕らの工・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ あの蓮の花の光景がもう見られなくなっているとしたら、実に残念至極のことだと思うが、しかし巨椋池はかなり広いのであるからそんなことはあるまい。 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
出典:青空文庫