・・・ガード下の空地に茣蓙を敷き、ゴミ箱から漁って来た残飯を肴に泡盛や焼酎を飲んでさわぐのだが、たまたま懐の景気が良い時には、彼等は二銭か三銭の端た金を出し合って、十銭芸者を呼ぶのである。彼女はふだんは新世界や飛田の盛り場で乞食三味線をひいており・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ 松木は、残飯桶のふちを操って、それを入口の方へころばし出した。 そこには、中隊で食い残した麦飯が入っていた。パンの切れが放りこまれてあった。その上から、味噌汁の残りをぶちかけてあった。 子供達は、喜び、うめき声を出したりしなが・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・…… そこへ親爺が残飯桶を荷って登って来た。「宇平ドンにゃ、今、宇一がそこの小屋へ来とるが、よその豚と間違うせに放すまい、云いよるが……。」と、親爺は云った。 健二は老いて萎びた父の方を見た。残飯桶が重そうだった。「宇一は、・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・世の多くの飼い主は、みずから恐ろしき猛獣を養い、これに日々わずかの残飯を与えているという理由だけにて、まったくこの猛獣に心をゆるし、エスやエスやなど、気楽に呼んで、さながら家族の一員のごとく身辺に近づかしめ、三歳のわが愛子をして、その猛獣の・・・ 太宰治 「畜犬談」
出典:青空文庫