・・・彼は父母と、師長と、国土への恩愛を通して、活ける民族的、運命的共同体くにへの自覚と、感謝と、護持の念にみちみちていた。彼はその活きたくにへの愛護の本能によって、大蒙古の侵逼を直覚し、この厄難から、祖国を守らんがために、身の危険を忘れて、時の・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
一、反戦文学の階級性 一 戦争には、いろ/\な種類がある。侵略的征服的戦争がある。防禦戦がある。又、民族解放戦争、革命も、そこにはある。 戦争反対の文学は、かなり昔から存在して居るが、ブル・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・こんなのを民族的自覚というのでしょうか。 書いているうちに、何もかも、みんな、くだらなくなりました。これで失礼いたします。けさは朝から不愉快でした。少し落ち附いて考えてみたくなりました。なんだか、みんな不安になりました。けれどもお気にな・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・僕は日本民族の中で一ばん血統の純粋な作品を一度よみたく存じとりあえず歴代の皇室の方々の作品をよみました。その結果、明治以降の大学の俗学たちの日本芸術の血統上の意見の悉皆を否定すべき見解にたどりつきつつあります。君はいつも筆の先を尖がらせても・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・物事が悪く行ったり戦いに敗れたり病気にかかったりすると、彼等はきまって、こういう不幸は何もかも自分たちの民族の信仰の不足のせいであると思い込んでいたのだ。ただ、エホバのみを恐れた。罪が悪霊の単独の誘惑の結果であるという考えは、嘗て彼等に起っ・・・ 太宰治 「誰」
・・・「ユダヤ人はその職業上の環境や民族の過去のために、人から信用されるという経験に乏しい。この点に関してユダヤ人の学者に注目して見るがいい。彼等は論理というものに力瘤を入れる。すなわち理法によって他の承諾を強要する。民族的反感からは信用したくな・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・音楽舞踊はいかなる野蛮民族の間にも現存する。建築や演劇でも、いずれもかなりな灰色の昔にまでその発達の径路をさかのぼる事ができるであろう。マグダレニアンの壁画とシャバンヌの壁画の間の距離はいかに大きくとも、それはただ一筋の道を長くたどって来た・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そこいらの漁師の神さんが鮪を料理するよりも鮮やかな手ぶりで一匹の海豹を解きほごすのであるが、その場面の中でこの動物の皮下に蓄積された真白な脂肪の厚い層を掻き取りかき落すところを見ていた時、この民族の生活のいかに乏しいものであるかということ、・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・そればかりでなく、彼はまた曲線的なるゴチック式の建築が能くかの民族の性質を伝るように、この方形的なる霊廟の構造と濃厚なる彩色とは甚だよく東洋固有の寂しく、驕慢に、隔離した貴族思想を説明してくれる事を喜んだ。なおそれのみに止まらず、紅雨は門と・・・ 永井荷風 「霊廟」
文化の発展には民族というものが基礎とならねばならぬ。民族的統一を形成するものは風俗慣習等種々なる生活様式を挙げることができるであろうが、言語というものがその最大な要素でなければならない。故に優秀な民族は優秀な言語を有つ。ギリシャ語は哲・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
出典:青空文庫