・・・ 左の第二指に出来た水ぶくれが痛んで音を出し辛い。 すぐやめて仕舞う。 西洋葵に水をやって、コスモスの咲き切ったのを少し切る。 花弁のかげに青虫がたかって居た。 気味が悪いから鶏に投げてやると黄いコーチンが一口でたべて仕・・・ 宮本百合子 「秋風」
・・・真四角な石造で、窓が高く小さく只一つの片目のようについて居る、気味が悪いと見た人が申しました。何でございましょう。此間、頂上まで登って見たいと思って切角出かけたのに途中で駄目になって仕舞いました。平地の健脚は、決して石ころの山道で同様の威厳・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・A 私何だか気味が悪いわそんな事、 何にも出なくって。 若し出たらどうなさるの、お母様はいらっしゃらないし。C 立派な手足があるわねえ、おじさん。旅 そうそう、私はこれから段々みがきのかかった手足でまだどの位の日数を歩い・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ あの書斎のひろい椅子に腰かけて青い顔をして居るのを見るのはほんとうに変なほど気味が悪いって。 やっぱり眼の上が落ちました、 そいで眼が大きく見える。 千世子はさっきの京子の言葉を思い出して笑いながら小さい鏡を立って持っ・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・彼女が――十近くも年の違う姉ではありましたけれ共――母に甘えてどうかして居る晩などは「気味が悪いよ」などと云う母親の顔へ無理でも自分の顔を押しあて様とする事がありますと、彼はもう此上ない憤りに胸を掻き乱されながら鳶色の愛情でこり固まった様な・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・では盲腸のしこりも、魚の目のようにとかすのかしら、何だか気味が悪いと笑った。 鳩麦というものだけ買って、戸棚に入れたまま何月か経った。買ったときの私のつもりでは、其れを田舎に暮している私の姑にあたる人に送るつもりだった。まだかっちりと若・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・銭湯を知らない私は、温泉でさえ気味が悪い様でいやがって居るのだもの、新らしくなりもしず、汚れた水を吸い込む木の槽の肌にはどんな汚れが誰から出て入って居るだろうと思うといくら新らしい湯に最初入ってもいやである。とうとう私の居る間は立て廻しから・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・「ほんとうになんだか気味が悪い人だこと、それに今日はいつもにもまして変な様子をして」 私の見つめて居るのをさける様にわきを見ながら云って居る、フッと私の心ん中で「今日は私の一番仲の好いこの人をいじめて見よう」こんなむほん気が起った。・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫