・・・ 池辺君の容体が突然変ったのは、その日の十時半頃からで、一時は注射の利目が見えるくらい、落ちつきかけたのだそうである。それが午過になってまただんだん険悪に陥ったあげく、とうとう絶望の状態まで進んで来た時は、余が毎日の日課として筆を執りつ・・・ 夏目漱石 「三山居士」
・・・すると間もなく大阪から鳥居君が来たので、主筆の池辺君が我々十余人を有楽町の倶楽部へ呼んで御馳走をしてくれた。余は新人の社員として、その時始めてわが社の重なる人と食卓を共にした。そのうちに長谷川君もいたのである。これが長谷川君でと紹介された時・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ 同じ古本のつみ重りの下から、池辺義象の『仏国風俗問答』明治三十四年版と、明治二十五年発行の森鴎外『美奈和集』、同じ人の三十五年二月発行『審美極致論』が埃にまびれて現れた。「当世書生気質」を収録した『太陽』増刊号の赤いクロースの厚い菊判・・・ 宮本百合子 「本棚」
・・・ この話は『翁草』に出ている。池辺義象さんの校訂した活字本で一ペエジ余に書いてある。私はこれを読んで、その中に二つの大きい問題が含まれていると思った。一つは財産というものの観念である。銭を待ったことのない人の銭を持った喜びは、銭の多少に・・・ 森鴎外 「高瀬舟縁起」
出典:青空文庫