・・・こう。ロマンチックであろうが、センチメンタルであろうが、新しい思潮に触れていまいが、そんなことは考えずに書こう。こう決心して、それからK氏――小林君の親友のK氏を大塚に訪問し、手紙を二三通借りて来たりして、やがて行田に行って、石島君を訪ねた・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・ そしてこう決心した。「どうもこいつの方が信用が置けそうだ。この卓や腰掛が似ているように、ここに来て据わる先生達が似ているなら、おれは襟に再会することは断じて無かろう。」 こう思って、あたりを見廻わして、時分を見計らって、手早く例の・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・すなわち、一方にはある決心をしたアルベールと不安をかくしているポーラが踊っている。一方のすみには熊鷹のような悪漢フレッドの一群が陣取って何げないふうを装って油断なくにらまえている。ここで第三者たる観客はまさに起こらんとする活劇の不安なしかも・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・わたくしは生涯独身でくらそうと決心したのでもなく、そうかといって、人を煩してまで配偶者を探す気にもならなかった。来るものがあったら拒むまいと思いながら年を送る中、いつか四十を過ぎ、五十の坂を越して忽ち六十も目睫の間に迫ってくるようになった。・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・後学のため話だけでも拝聴して帰ろうとようやく肚の中で決心した。見ると津田君も話の続きが話したいと云う風である。話したい、聞きたいと事がきまれば訳はない。漢水は依然として西南に流れるのが千古の法則だ。「だんだん聞き糺して見ると、その妻と云・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・と云うほどでもなかった。彼女の眼は「何でもいいからそうっとしといて頂戴ね」と言ってるようだった。 私は義憤を感じた。こんな状態の女を搾取材料にしている三人の蛞蝓共を、「叩き壊してやろう」と決心した。「誰かがひどくしたのかね。誰かに苛・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・私しゃどうともまだ決心ていないんです。横浜の親類へ行ッて世話になッて、どんなに身を落しても、も一度美濃善の暖簾を揚げたいと思ッてるんだが、親類と言ッたッて、世話してくれるものか、くれないものか、それもわからないのだから、横浜へ進んで行く気も・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・結婚は生涯の一大事にして、其法、西洋諸国にては当局の男女相見て相択び、互に往来し互に親しみ、いよ/\決心して然る後父母に告げ、其同意を得て婚式を行うと言う。然るに日本に於ては趣を異にし、男子女子の為めに配偶者を求むるは父母の責任にして、其男・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ なぜわたくしは今日あなたに出し抜けに手紙を上げようと決心いたしたのでしょう。人の心の事がなんでもお分かりになるあなたに伺ってみたら、それが分かるかも知れません。わたくしこれまで手紙が上げたく思いましたのは、幾度だか知れません。それでい・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
四月廿九日の空は青々と晴れ渡って、自分のような病人は寝て居る足のさきに微寒を感ずるほどであった。格堂が来て左千夫の話をしたので、ふと思いついて左千夫を訪おうと決心した。左千夫の家は本所の茅場町にあるので牡丹の頃には是非来いといわれて居・・・ 正岡子規 「車上の春光」
出典:青空文庫