・・・見ていると、まるで二匹の小さい犬ころが雪の原で上になり下になり遊びたわむれているようで、期待していた決闘の凛烈さは、少しもなかった。二人の男も、なんだか笑いながらしているようで、さちよは、へんに気抜けがした。間もなく、助七は、ひっくりかえり・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・河出書房から「女の決闘」が出ました。 ことしは、実業之日本社から「東京八景」が出ました。二、三日中に、文芸春秋社から「新ハムレット」が出る筈です。それから、すぐまた砂子屋書房から「晩年」の新版が出るそうです。つづいて筑摩書房から「千代女・・・ 太宰治 「私の著作集」
・・・猛獣の争闘のように血を流し肉を破らないから一見残酷でないようでありむしろ滑稽のようにも見えるが、実は最も残忍な決闘である。精神的にこれとよく似た果たし合いは人間の世界にもしばしばあるが、不思議なことにはこういう種類の決闘は法律で禁じられてい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 宿河原のぼろぼろの仇討決闘の話でも、我執無慙を非難すると同時にまた「死を軽くして、少しもなづまざるかたのいさぎよさ」を讃えている。 これらの著者の態度は一方から云えば不徹底で生煮えのようでもあるが、ものの両面を認識して全体を把握し・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・「帯刀の廃止、決闘の禁制が生んだ近代人の特典は、なんらの罰なしに自分の気に入らない人に不当な侮辱を与えうる事である。愚弄に報ゆるに愚弄をもってし、当てこすりに答えるに当てこすりをもってする事のできる場合には用はないが、無言な正義が饒舌な機知・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・で募集する日記体でかいて御目にかけよう。出来事だって風来山人の生活だから面白おかしい事はない、すこぶる平凡な物さ。「オキスフォード」で「アン」を見失ったとか、「チェヤリングクロス」で決闘を見たとか云うのだと張合があるが、いかにも憫然な生活だ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ ――決闘をするような男じゃ、絶対にないのだが。―― 安岡は、そんな下らないことに頭を疲らすことが、どんなに明日の課業に影響するかを思って、再び、一二三四と数え始めた。が、彼が眠りについたのは、起きなければならない一時間前であった。・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・さあ決闘をしろ」 狐が実に悪党らしい顔をして言いました。 「へん。貴様ら三疋ばかり食い殺してやってもいいが、俺もけがでもするとつまらないや。おれはもっといい食べものがあるんだ」 そして函をかついで逃げ出そうとしました。 「待・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・よしさあ、僕も覚悟があるぞ。決闘をしろ、決闘を。」「まあ、お待ちなさい。ね、あのお日さまを見たときのうれしかったこと。どんなに僕らは叫んだでしょう。千五百万年光というものを知らなかったんだもの。あの時鋼の槌がギギンギギンと僕らの頭にひび・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ギラギラする鋼の小手だけつけた青と白との二人のばけものが、電気決闘というものをやっているのでした。剣がカチャンカチャンと云うたびに、青い火花が、まるで箒のように剣から出て、二人の顔を物凄く照らし、見物のものはみんなはらはらしていました。・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫