・・・いまさらわしが隠居仕事で候のと言って、腰弁当で会社にせよ役所にせよ病院の会計にせよ、五円十円とかせいでみてどうする、わしは長年のお務めを終えて、やれやれ御苦労であったと恩給をいただく身分になったのだ。治まる聖代のありがたさに、これぞというし・・・ 国木田独歩 「二老人」
・・・腹痛やゝ治まる。向うへ越して交番に百花園への道を尋ね、向島堤上の砂利を蹴って行く。空いつの間にか曇りてポツリ/\顔におつれどさしたる事もなければ行手を急いで上へ/\と行く。道右へ廻りて両側に料理屋茶店など立ち並ぶ間を行く。右手に萩の園と掛札・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・娘を人の家に嫁せしめて舅姑の機嫌に心配あり、兄公女公親類の附合も面倒なり、幸に是等は円く治まるとしても、肝心の夫こそ掛念至極の相手なれ。其性行正しく妻に接して優しければ高運なれども、或は然らず世間に珍らしからぬ獣行男子にして、内君を無視し遊・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
出典:青空文庫