・・・この問題より前にまず五官による認識の本質的特徴に注目する必要がある。 思うに五官の認識の方法は一面分析的であると同時にまた総合的である。たとえば耳は音響を調和分析にかける。そうして、めんどうな積分的計算をわれわれの無意識の間に安々と仕上・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・そして車掌の方では鋏穴ばかりを注目するのだから止むを得ないというのである。そう云われてみると私は一言もない。 そのうちに電車監督らしい人が来た。こういう事に馴れ切っているらしい監督はきわめて愛想よく事件を処理した。「決して御客様方の人格・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ これもやはり、他の多くの場合と同様に自分の注目し期待する特定の場合の記憶だけが蓄積され、これにあたらない場合は全然忘れられるかあるいは採点を低くして値踏みされるためかもしれない。しかし必ずしもそういう心理的の事実のみではなくて、実際に・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・たとえ胴中を枝の貫通した鳥の絵は富豪の床の間の掛物として工合が悪いかもしれぬが、そういう事を無視して絵を画く人が存在するという事実自身が一つの注目すべき啓示ではあるまいか。自分は少し見ているうちにこの種の非科学的な点はもうすっかり馴れてしま・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・前者は相に注目したのであり、後者は本質の事を云ったのであろう。今年も多少の相の変化はあるに相違ない。ある意味では変化し過ぎて困るかもしれない。何らの必然性のない万花鏡のような変化は結局本質の空虚を意味する事にもなるのだが、まさか帝展はそうで・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・十二月も早や二十日過ぎなので、電車の馳せ行く麹町の大通りには、松竹の注目飾り、鬼灯提灯、引幕、高張、幟や旗のさまざまが、汚れた瓦屋根と、新築した家の生々しい木の板とに対照して、少しの調和もない混乱をば、なお更無残に、三時過ぎの日光が斜めに眩・・・ 永井荷風 「深川の唄」
・・・常に汝らの挙動に注目して一毫も仮さず、鼓を鳴らしてその罪を責めんと欲する者なり。 人間処世の権理に公私の区別ありて、先ず私権を全うして然る後、公権の談に及ぶべしとの次第は、かつて『時事新報』の紙上にも記したることなるが、そもそもこの私権・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・傍観者もまた球に注目せざればついにその要領を得ざるべし。今尋常の場合を言わば球は投者の手にありてただ本基に向って投ず。本基の側には必らず打者一人棒を持ちて立つ。投者の球正当の位置に来れりと思惟する時は(すなわち球は本基の上を通過しかつ高さ肩・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・しかしここで注目すべきことは、日本では、明治開化期が、二十二年憲法発布とともに、却って逆転させられて、人民の自由の封鎖がはっきりその頃からはじまった点である。それまでは闊達であった婦人の政治的活躍も様々の法令や規則で禁止されるようになったし・・・ 宮本百合子 「明日への新聞」
一 このたびのアメリカ大統領選挙は、まったく世界の広場のまんなかで、世界じゅうの注目をあつめて、たたかわれた。どこの国でも日本のように共和党の候補者デューイの当選が確実だと、あれほど宣伝されていた・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
出典:青空文庫