・・・ と私はひとりごとのように呟き、やっと窓のカアテンに触って、それを排して窓を少しあけ、流水の音をたてた。「キクちゃんの机の上に、クレーヴの奥方という本があったね。」 私はまた以前のとおりに、からだを横たえながら言う。「あの頃・・・ 太宰治 「朝」
・・・れ一人の胸底に秘するも益なく惜しき事に御座候えば、明後日午後二時を期して老生日頃昵懇の若き朋友二、三人を招待仕り、ささやかなる茶会を開催致したく、貴殿も万障繰合せ御出席然るべく無理にもおすすめ申上候。流水濁らず、奔湍腐らず、御心境日々に新た・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・万一にも大都市の水道貯水池の堤防でも決壊すれば市民がたちまち日々の飲用水に困るばかりでなく、氾濫する大量の流水の勢力は少なくも数村を微塵になぎ倒し、多数の犠牲者を出すであろう。水電の堰堤が破れても同様な犠牲を生じるばかりか、都市は暗やみにな・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ 情感をゆたかに高めるというとき、それがどんなに多くの多様な光りを智慧からうけるものであるか、理智と感情とは対立したものでなくて、流水相光を交し、行動とからんで一体として生彩を放つものであるかということを、私たちは感情世界の新しい息づき・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
出典:青空文庫