・・・ここには、自然の好きな人間の感覚それにもまして人間の生活、種々様々な人間の動きということが面白くて、気にも入って観ている人間の観かた、入りこみが流露しているのである。 しかも宗達は、こんなに柔軟で清新な芸術の世界で、いかにも微笑まれる技・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ 若い少女たちが、その歌声の澄みわたった響で太陽の光線を美しく顫わすように、疲れ、鈍らせられていない良心の流露で、誇りたかく生きる道を進んで行ったら、其姿は、優しくひるむことない進歩の旗じるしとなると思います。〔一九四五年十二月〕・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 十九世紀のあの時代のロシア、そして、そこを生きたチャイコフスキーが、音楽そのものの力で語り、描き訴えている生命の色彩の生々しい古典性が、見事に流露された。非常に面白く思われた。あの作品は、とかくチャイコフスキーのスラブ的なものというも・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・ それは混乱がそのまま語られているわけだが、みんな映画通ではあるまいし、生活のいろんな心持の要求で観たのだから、それなりの真率さが流露してきくものの心持では素直にきける。本質はそういうものなのに、考えた言葉に翻訳してあんな風に云うことは・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・が柔かな紅い色の曲線で描かれたクロッキーであり、その主調がひろ子の愛の情であるにしろ、そのような愛の流露が可能とされている歴史の過程と一貫した階級的な立場の本質は、たたかいとられた生の肯定その発展として作品の隅々にまで鳴っている。「風知草」・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・ヒューマニティーのより自然で、より美しい流露を願うならば、D・H・ローレンスの行ったたたかいは、局部的であったし、人間社会の現実問題としての性の課題の根本にまで触れない。現代文学が主題とするヒューマニズム探求の一環として見た場合、D・H・ロ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・あらゆる日本の隅々から、あらゆる日本の町々から、日本の人民の議論と、笑いと、真摯な物語りとやさしい心情の流露とが溢れて、荒廃した日本を沃土としなければならないのである。 日本は、このように小さい島である。けれども、南と北に弓なりに張られ・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・真個の女性が無意識に流露させる女らしさが、微妙な隅々で欠けているので、天真の軟らかみが乏しいとも云えよう。女形の女性は、筋の上で与えられた性格の特質だけを強調する点ではうまいかもしれないが、それ等の底に流れ満ちている泉のような何ものかを胸に・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ごく曲線的な薄田の演技は、本間教子のどちらかというと直線的なしかも十分ふくらみのあるつよい芸と調和して生かされているので、友代が、あれだけの真情を流露させる力をもたなかったら、おそらくあの芝居全体が、ひどくこしらえもののようにあらわれ、久作・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・―― 絵物語の女が桃龍自身の通り大きな鼻をもっているところ、境遇的な感じ方で描くところ、若い女らしいものが流露していてそれが桃龍だけに、ひろ子は可憐な気がした。「さ、あて着物かえさしてもらお」 隈を自分の顔に描いて遊んでいた里栄・・・ 宮本百合子 「高台寺」
出典:青空文庫