・・・たとえば社会主義に、対立する真の敵は、もとより資本主義には相違ないが、これあるがために、闘争的意志は強められ、信念は、益々浄化される。しかし、其の間に介在する灰色の階級や、主義者は、却って相互の闘争的精神を鈍らせるばかりでなく、真理に向って・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・真実なるがために、正義なるがために苛められて、争抗をつゞける者によってのみ、この社会は、浄化されるのです。 彼等の強いのは、真理を味方とするからです。苛められる者だけが、鞭の痛さを、人間性を、この社会の真相を、また友人をも、敵をも、真に・・・ 小川未明 「自分を鞭打つ感激より」
・・・それが彼の醜悪と屈辱の過去の記憶を、浄化するであろうと、彼は信じたのであった。彼は自分のことを、「空想と現実との惨ましき戦いをたたかう勇士ではあるまいか」と、思ったりした。そして今や現実の世界を遠く脚下に征服して、おもむろに宇宙人生の大理法・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 最近の人間学的な倫理学の方向が、この社会幸福主義を性質的に高め、浄化させんがために、一方では人格主義の、いわゆる人格の意味を、個人主義的な桎梏から解放して、これは社会的人間に鋳直すことにより、人格主義と社会幸福主義とを、本質的に止揚し・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そして老いては女性の聖となるまでに、その恋を守り、高め、そして浄化せよ。 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・という一天使に浄化する事がどうしても出来ません。 私のいまの仕事は、旧約聖書の「出エジプト記」の一部分を百枚くらいの小説に仕上げる事なのです。私にとっては、はじめての「私小説」で無い小説ですが、けれども、やっぱり他人の事は書けません。自・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・そしてその余韻は、その人の生活をいくぶんでも浄化するだけの力をもっている。こういう美しいものを見たときと見なかった時とで、その後に来る吾人の経験には何らのちがった反響がない訳にはゆかない。 展覧会で童女像を見た事と壷のアドヴェンチュ・・・ 寺田寅彦 「ある日の経験」
・・・ 蛆がきたないのではなくて、人間や自然の作ったきたないものを浄化するために蛆がその全力をつくすのである。尊重はしても軽侮すべきなんらの理由もない道理である。 蛆が成虫になって蠅と改名すると、急にたちが悪くなるように見える。昔は「五月・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・ うじがきたないのではなくて人間や自然の作ったきたないものを浄化するためにうじがその全力を尽くすのである。尊重はしても軽侮すべきなんらの理由もない道理である。 うじが成虫になってはえと改名すると急に性が悪くなるように見える。昔は五月・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そしてそれだけにかえって祖父に対するなつかしみは浄化され純化されて子供等の頭の中の神殿に収められるだろうと思ったりする。 今年の夏始めに、涼み台が持ち出されて間もなく、長男が宵のうちに南方の空に輝く大きな赤味がかった星を見付けてあれは何・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫