・・・ そして、翼の白い海鳥が飛んでいました。 笛には、いくつかの小さな穴があいています。 その一つ一つの穴から、吹くと、ちがった音が出ました。 笛は短い赤と青とに、その色が塗り分けてありました。 大きな穴が一つ、小さな同じよ・・・ 小川未明 「赤い船のお客」
・・・ 少年は、おじいさんのことを思うと、胸がいっぱいになりました。いつしか自分の弾いているバイオリンの音は、悲しい響きをたてていたのでした。 海鳥は、しきりに鳴いています。頭の上の松の木を渡る風の音まで、バイオリンの音に心をとめて、しの・・・ 小川未明 「海のかなた」
・・・「これかい、これは海鳥だ。昨夜、おじいさんが、この鳥に乗って帰ってきなすったのだ。」と、お母さんはいわれました。 おじいさんが帰ってきなすったと聞いて、太郎は大喜びでありました。さっそく、おじいさんのへやへいってみますと、おじいさん・・・ 小川未明 「大きなかに」
・・・名も知らぬ海鳥が悲しく鳴いて中空に乱れて飛んでいました。爺と子供の二人は、ガタガタと寒さに体を震わして岩の上に立っていますと、足先まで大波が押し寄せてきて、赤くなった子供の指を浸しています。二人は空腹と疲労のために、もはや一歩も動くことがで・・・ 小川未明 「黒い旗物語」
出典:青空文庫