・・・はやく消化しろ。」 そして狸はポンポコポンポンとはらつづみをうちました。 それから丁度二ヶ月たちました。ある日、狸は自分の家で、例のとおりありがたいごきとうをしていますと、狼がお米を三升さげて来て、どうかお説教をねがいますと云いまし・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・鶏の肉はただこのように滋養に富むばかりでなく消化もたいへんいいのです。殊に若い鶏の肉ならば、もうほんとうに軟かでおいしいことと云ったら、」先生は一寸唾をのみました、「とてもお話ではわかりません。食べたことのある方はおわかりでしょう。」 ・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 第一植物性食品の消化率が動物性食品に比して著しく小さいこと。尤も動物性食品には含水炭素が殆んどないからこれは当然植物から採らなければならない。然しながらもし蛋白質と脂肪とについて考えるならば何といっても植物性のものは消化が悪い。単に分・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・けれども、そこから生れた後味、それによってこそ行進した方の真の感激も、行進をながめたものの感銘も、それからのちの生活感情のなかで美しく消化されてゆくはずの後味が、心理的にふっきれないものをのこしたとすれば、それはむしろ益より害があったという・・・ 宮本百合子 「女の行進」
・・・ 女性が女性として語ろうとしている本が消化されるのは、女性が置かれている新しい社会的な境遇について、自分たちにあるあれこれの問題について知りたい、自分たちの生活に問題があることを肯定してリアルに語る言葉にふれてみたいという願望からである・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
日本の文学者では、夏目漱石や鴎外などまでが、自身の文学的教養の中に中国文化のあるものを消化していたのだろうと思う。私たちの時代になると、伝統的な中国の文物については教養的に不足して来ているし、実際の生活感情からも遠くなって・・・ 宮本百合子 「中国文化をちゃんと理解したい」
・・・その必要に立って、自我の拡大のための重大な消化機能である現実的な批判精神というものは拒否して来たのであったから。 社会情勢の波瀾が内外の圧力で純文学末期の無力な自我から最後の足がかりを引攫おうとしたとき、そのような苛烈な現実を歴史的な動・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・こういう階級性は決して作品の具体的な世界から遊離した観念としてのべられているのではなく、作品の血肉として消化され、芸術として形づくられています。主人公は、まだ階級的に目ざめつつある過程が描かれているのですから、まだ共産主義者として行動してい・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・民主主義文学者が労働階級の文化・文学を要望するあまり、現実の発展してゆくこまかい足もとをとばして、過去と現在の積極的文化・文学の業績の吸収と消化なしに新しい文学が生れうるかのような鼓舞激励を与えることは、かえって、地道な新しい文学の創造力の・・・ 宮本百合子 「両輪」
・・・こうも落ちつく暇のない毎日の間に、隣組からの強制貯金とか、厖大な数字に上る国債の消化とかいう仕事も、つまるところは一家の主婦、さもなければ、家計を援けて働いている女子の勤労者のやりくりに、解決を俟つ有様となった。家庭から先ず男が戦線に奪われ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫