・・・現世祈祷を事とする堕落僧の言を無批判に頂戴し、将門が乱を起しても護摩を焚いて祈り伏せるつもりでいた位であるし、感情の絃は蜘蛛の糸ほどに細くなっていたので、あらゆる妄信にへばりついて、そして虚礼と文飾と淫乱とに辛くも活きていたのである。生霊、・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・あなたみたいな淫乱じゃありませんよ。」「言葉をつつしんだら、どうだい。ゲスなやつだ。」 急に不快になって、さらにウイスキイをがぶりと飲む。こりゃ、もう駄目かも知れない。しかし、ここで敗退しては、色男としての名誉にかかわる。どうしても・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・恋愛チャンス説は、淫乱に近い。それではもう一つの、何のチャンスも無かったのに、十年間の恋をし続け得た経験とはどんなものであるかと読者にたずねられたならば、私は次のように答えるであろう。それは、片恋というものであって、そうして、片恋というもの・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・せっかく苦労して、悪い材料は捨て、本当においしいところだけ選んで、差し上げているのに、ペロリと一飲みにして、これは腹の足しにならぬ、もっとみになるものがないか、いわば食慾に於ける淫乱である。私には、つき合いきれない。 何も、知らないので・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・私が毛虫なら、あなたは蛇だ。淫乱だ。女郎だ。みんなに言ってやる。ようし、みんなに言ってやる。清蔵さん、お待ちなさい。何をなさる。気が狂ったか、糞婆め。(庖丁を取り上げ、あさを蹴倒お母さん! つらいわよう。聞いていました。立聞・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・ 金持の淫乱な婆さんが、特に勝れて強壮な若い男を必要とするように、第三金時丸も、特に勝れて強い、労働者を必要とした。 そして、そのどちらも、それを獲ることが能きた。 だが、第三金時丸なり、又は淫乱婆としては、それは必要欠くべから・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・三には淫乱なれば去る。四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き疾あれば去る。六に多言にて慎なく物いひ過すは、親類とも中悪く成り家乱るゝ物なれば去べし。七には物を盗心有るを去る。此七去は皆聖人の教也。女は一度嫁して其家を出されては仮令二度富・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・三には淫乱なれば去る。四には悋気深ければ去る。五に癩病などの悪き病あらば去る。六に多言にて慎なく物いい過すは親類とも中悪く成り家乱るる物なれば去るべし。七には物を盗む心有るは去る。此七去は皆聖人の教也。」 聖人というのは支那の儒教の聖人・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫