・・・と、可憐にも当時の不十分に心の深められていなかった鉄則に屈することが、描かれているのである。 片岡氏は、当時のブルジョア道徳が逆宣伝的に、階級闘争に従う前衛のはなはだしく困難な生活の中に、不可避的に起ったさまざまの恋愛錯雑を嘲笑したのに・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・、資本主義の社会体制が保たれることで特権をもってゆける支配階級の人々は、あらゆる手段をつくして新しい社会体制の発展を遅らせようと努力していますし、あからさまに人民大衆を犠牲にして、社会的混乱を拡大し、深め、その間に新しい歴史をつくってゆく労・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・て、まともに生きようと欲している、という人生のテーマと、そこにある感覚をしっかりもって、ふれる文学作品の一つ一つについて、心にひきおこされる直感的な判断を大切に保って、それを社会的に文学的に成長しつつ深め展開させて行ってこそ、はじめて、その・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・それは、作品批評とはどういう風にされなければならないかということについての、批評の階級性ならびに人間性についてのより深められた理解である。 この経験から学びとられた教訓は、更に、それからあとにつづいたおそろしい混乱の長い期間をとおして、・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・し私としては非常に、わずかのことしか知っていませんので、至極ぼんやりと、一九二九年以後アメリカの繁栄が蒙った変化につれて変化した文学、次第に成長し、ヨーロッパの良質な人をどんどんうけ入れてニュアンスを深めて来る「アメリカの明るさ」がどんな文・・・ 宮本百合子 「アメリカ我観」
・・・ 作者は日本の封建的ブルジョア教育との闘争を、プロレタリアート解放のための具体的一部としてつかみ、芸術による闘いとして主題を深めていないからである。書く材料をペン先で扱っているからである。もし作者が一小学教師の煩悶、反逆を、野蛮な封建的絶対・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・戦争については周知のような態度であった尾崎士郎のような作家でさえ、あわただしい雑記のうちに、印象が深められずに逸走してしまう作家として苦しい瞬間のあることをほのめかしている。火野葦平が、文芸春秋に書いたビルマの戦線記事の中には、アメリカの空・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
一 最近自分の生活の上に起った重大な変動は、種々な点で自分の経験を深めて呉れたと同時に、心に触れる対象の範囲をも亦広めて呉れた。今までは或る知識として、頭で丈解っていた生活の内容が、多少なりとも体・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・りな概括にまで思い及んだのであるが、今度は立場を逆にして、画家はどの程度にまで自分の絵を鑑賞しようとする人々の生理的な条件――その疲労とか休安とかの実状を考慮に入れているであろうかと、こと新たな省察を深められた。 勤労階級の生活感情を反・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・作者は、しかし、人道的であり集団的活動の熱意をもって働いている主人公のありかたについて、もう一つ深めてみてもよかったと思う。主人公の僚友に対する責任感が、自身患者であるその人個人の安静の犠牲によって果されるしかないという療養所内の現実が、も・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
出典:青空文庫