・・・伸子は伸子なりに渦巻くそれらの現実に対し、あながち一身の好悪や利に立っていうのではない批判をもちはじめている。日本の社会が、あらゆる階層を通じてとくに婦人に重く苦しい現実を強いていることは、人生を愛す気質をもって生れている伸子を一九二七年の・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・身のまわりに渦巻く現象が新しい要素を加えてめまぐるしくなればなるほど、わたしたちは、そのめまいを起させるような現象の底にある社会的動力をつかんで全体を理解しようと欲するし、その動力の本質を、よりよいものへ、より人間らしい方向へ働き得るものに・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・ウォール街を中心に渦巻く宣伝の都市ニューヨークの旅で迎える三月八日平和のための国際婦人デーは労働組合からの婦人代表もふくむこれら十名の日本婦人たちに何を考えさせるだろうか。 A・Pのカメラが渡米婦人団の写真の中心に赤松常子さんの日本服姿・・・ 宮本百合子 「この三つのことば」
・・・江波恵子という特異な少女がその少女期を脱しようとする奔放な生命の発動に絡んで、間崎という教師、橋本先生という女教師等が、地方の一ミッション・スクールと地方的な文化を背景として渦巻く姿を描いた「若い人」が、多くの読者を惹きつけた原因の第一は、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 胡蝶の翅を飾る、あの美くしい粉ばかりを綴ったように、日の光りぐあいでどんな色にでも見える衣を被って、渦巻く髪に真赤なてんとう虫を止らせている乙女は、やがてユーラスの見たこともないライアをとりあげました。 そして、七匹の青蜘蛛が張り・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・あらゆる悪態、罵声、悪意が渦巻くような苦しい毎日なのであるが、その裡でゴーリキイを更に立腹させたのは、土曜日毎に行われる祖父の子供らに対する仕置であった。祖父は一つの行事として男の子供らを裸にし、台所のベンチへうつ伏せに臥かせ、樺の鞭でその・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・貧、富、男、女、四騎手の雑兵となって渦巻く人類からその毒牙を奪う叱咤である。愛である。かかる愛の爆発力は同じき理想の旗のもとに、最早や現実の実相を突破し蹂躙するであろう。最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。その各自の熱情に従って・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・画面の上に芸当として並べられた線や色彩ではなくして、氏の心に渦巻くものを画面にさらけ出そうとするための線や色彩である。そうしてそこには、確かに、我々の心の一角に触れる淡い情趣が生かされている。すなわち牧歌的とも名づくべき、子守歌を聞く小児の・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・この決心のもとに虚栄と獣性と罪悪との渦巻く淵を彼岸に泳ぎ切る。若きダンテはビアトリースの弔いの鐘に胸を砕かれてこの淵に躍り入った。フロレンスの門の永久に彼に向かって閉じられてよりはさらに荒き浮世の波に乗る。彼の魂は世の汚れたる群れより離れて・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫