・・・「有名な、湯葉屋です。」「湯葉屋――坊主になり損った奴の、慈姑と一所に、大好きなものだよ。豆府の湯へ箱形の波を打って、皮が伸びて浮く処をすくい上げる。よく、東の市場で覗いたっけ。……あれは、面白い。」「入ってみましょう。」「・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・そして街から街へ、先に言ったような裏通りを歩いたり、駄菓子屋の前で立ち留まったり、乾物屋の乾蝦や棒鱈や湯葉を眺めたり、とうとう私は二条の方へ寺町を下り、そこの果物屋で足を留めた。ここでちょっとその果物屋を紹介したいのだが、その果物屋は私の知・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・――湯葉に、椎茸に、芋に、豆腐、いろいろあるじゃないか」「いろいろある事はあるがね。ある事は君の商売道具まであるんだが――困ったな。昨日は饂飩ばかり食わせられる。きょうは湯葉に椎茸ばかりか。ああああ」「君この芋を食って見たまえ。掘り・・・ 夏目漱石 「二百十日」
出典:青空文庫