・・・熱鉛を水中に滴下すれば、さまざまの奇形を生ずる。しかし一つ一つの形は自然科学には一顧の価もない。しかし精神科学では個性的なものが最も価あるものである。フリードリッヒ大王や、ゲーテの事蹟は斯学の対象として、いつまでも研究をつづけていかれる。・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ブンゼン燈のバリバリと音を立てて吹き付ける焔の輻射をワイシャツの胸に受けながらフラスコの口から滴下する綺麗な宝石のような油滴を眺めているのは少しも暑いものではなかった。 夕方井戸水を汲んで頭を冷やして全身の汗を拭うと藤棚の下に初嵐の起る・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ 水の中に濃硫酸をいれるのに、極めて徐々に少しずつ滴下していれば酸は徐々に自然に水中に混合して大して間違いは起らないが、いきなり多量に流し込むと非常な熱を発生して罎が破れたり、火傷したりする危険が発生する。 汽車や飛行機や電話や無線・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
出典:青空文庫