・・・諸国の天女は漁夫や猟人を夫としていつも忘れ得ず想っている。底なき天を翔けた日を人の世のたつきのあわれないとなみやすむ間なきあした夕べにわが忘れぬ喜びを人は知らない。 諸国の天女、女たちが忘れぬ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ この次の機会にこそ、日本は漁夫の利をしめるか、さもなければ大漁祝いのわけ前にありついて、前回でものにしそこねた北や南での領土的野心をみたすことができるという潜行的な宣伝が行われている。あれこれと形をかえて、民間にはいりこんでいるもとの・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ 美しい、貧しいヴォルガの漁夫イゾートのこれらの言葉は、鋭く当時のロシアの農村の現実につき入っている。ナロードニキ出のロマーシは、他の農村派の人々よりは、現実的に農民を理解していたであろう。彼は、農奴解放が行われて僅か三十年しか経たない・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・その時に、ドイツのナチスとイタリーのファッシストと日本の侵略的支配者はヨーロッパのその矛盾、ヨーロッパ内部のその苦悩に乗じて、折あらばと漁夫の利を求めて、第一次大戦時代からちっとも本質の進歩していない侵略戦争を計画した。 日本が満州に侵・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・樵夫は樵夫と相交って相語る。漁夫は漁夫と相交って相語る。予は読書癖があるので、文を好む友を獲て共に語るのを楽にして居た。然るに国民之友の主筆徳富猪一郎君が予の語る所を公衆に紹介しようと思い立たれて、丁度今猪股君が予に要求せられる通りに要求せ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ときでも、まだ何とかかとか人は云い出す運動体だということ、停ったかと思うと直ちに動き出すこのルーレットが、どの人間の中にも一つずつあるという鵜飼い――およそ誰でも、自分が鵜であるか、鵜の首を握っている漁夫であるか考えるにちがいない人間の世界・・・ 横光利一 「鵜飼」
出典:青空文庫