・・・そればかりではない、先生は単にこの著作を完成するために、日本語と漢字の研究まで積まれたのである。山県君は先生の技倆を疑って、六ずかしい漢字を先生に書かして見たら、旨くはないが、劃だけは間違なく立派に書いたといって感心していた。これらの準備か・・・ 夏目漱石 「博士問題とマードック先生と余」
・・・『源氏』などの中にも、如何に多くの漢字がそのまま発音を丸めて用いられていることよ。また蕪村が俳句の中に漢語を取り入れた如く、外国語の語法でも日本化することができるかも知れない。ただ、その消化如何にあるのである。・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・一、前条の外に、化学、天文学等、種々の科目あれども、窮理学の中に属するものなれば別に掲げず。一、学問の順序は、必ずしもこの一科を終りて次に移るにあらず、二科も三科も同時に学ぶべし。一、漢字を知らざれば、原書を訳するにも訳書をよむ・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・今の百姓の子供に、四角な漢字の素読を授け、またはその講釈するも、もとより意味を解すものあるべからず。いたずらに双方の手間潰したるべきのみ。古来、田舎にて好事なる親が、子供に漢書を読ませ、四書五経を勉強する間に浮世の事を忘れて、変人奇物の評判・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・の中のむずかしい漢字は、今日の読者のためにかなに直した。 一九四八年九月〔一九四九年二月〕 宮本百合子 「あとがき(『伸子』)」
・・・は当時のすべての作家の作品がそうであったように、漢字が多くつかわれ、漢字にはふりがなをつけて印刷された。現代の読者にとってそれは不必要な重荷であるから、この選集に収録するにあたって、漢字をだいぶ仮名になおした。文章そのものはもとのままである・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・ 発表当時、会話が棒ではじまっていたり、くせのあるてにをはがつかってあったりした部分は、不必要な漢字と一しょにこのたび訂正されている。当時伏字にされて今日ではうずめられないところは、その要旨を附記してそのままにされている。終りには「社会・・・ 宮本百合子 「あとがき(『モスクワ印象記』)」
・・・そして、彼が自分の子供たちに皆マリ、アンヌ、オットウ、ルイなどという西洋の名をつけていたことに思い到り、しかもそれをいずれも難しい漢字にあてはめて読ませている、その微妙な、同時に彼の生涯を恐らく貫ぬいているであろう重要な心持を、明治文学研究・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・ 文章のわかりやすさ、無制限に数の多い漢字を整理し、複雑な仮名づかいを単純にして、子供たちの負担を軽くし、日本語の世界化によい条件をつくろうとしている国語国字改良の運動もある。これは、ジェスチュアの多い、勇ましい、そしてわかりやすい文章・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・ 一人の仲間は、「活字中の漢字という漢字を知って居り」その人を先にたてて皆のあつまる会をつくり、会の金を出すためにその男はゴミ箱から緒の切れた板うらを出して来てはいた。会は雑誌とデッドボールと、バリカンとカミソリを買い要求に応じて全工場・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
出典:青空文庫